2011-01-01から1年間の記事一覧

吉本翁健在なり

『週刊新潮・新年特大号』に、吉本隆明氏へのインタビュー記事が掲載されている。昨今の「反原発」の思潮に関して、私見を述べている。議論を要約すればこういうことである。人類が営々として築いてきた文明の成果としての原子力の利用は、どんなに危険を伴…

和歌の優劣

渡部泰明東京大学教授の『和歌とは何か』(岩波新書)によれば、歌合は、作者以外に左右それぞれ方人(かとうど)40名近くがみやびのたたかいの主体として参加して催されたそうである。しかし歌の優劣の判定はむずかしく、判者を悩ませることが少なくなか…

冬ごしの木の芽

かつて都立上野高校の教頭(現職名副校長)の宗方俊遃(としゆき)氏から贈られた『木の芽の冬ごし(カラー版「自然と科学」1』(岩崎書店)に、木の芽についてわかりやすい解説がある。 ……植物のからだは、全部細胞でできていますから、成長点は細胞をつく…

「柳家花緑独演会」を聴く

昨日12/20は、東京銀座ブロッサム中央会館にて、「柳家花緑(かろく)独演会」を聴いた。S氏主宰落語研究会企画への参加である。参加7名。終演後の呑み会含めて楽しい夜となった。 前座は、弟子柳家花いち(二つ目)の「初天神」。子供に買ってやるのは、団…

〈変質者〉谷崎潤一郎

一昨日12/18は、東京吉祥寺シアターにて、「SCOT」公演、鈴木忠志演出『別冊 谷崎潤一郎』を観劇した。吉祥寺大通りを右に入ったベルロードの奥左に吉祥寺シアターの建物がある。1Fにカフェとロビーがあり、2Fに劇場がある。左側ブロックH列の端の4の席なの…

春野寿美礼さん、杜けあきさん

昨日12/14は、「アトリエ・ダンカン」企画製作のミュージカル公演『ア・ソング・フォー・ユー』を、新国立劇場・中劇場にて鑑賞。1970年代、東京福生市のあるライブハウスが舞台。近くに米軍横田基地があり、ベトナム戦争を戦う米軍兵士らの憩いの場という設…

街へ出て、書を捨てず

昨日12/12は、東京神田の街をぶらついた。JRお茶の水駅から「丸善」横を緩やかに下る坂道は、黄葉の銀杏並木が続き、逆光の陽射しが眩しかった。 坂道が終ったところの引っ込んだ右側に「世界観ギャラリー」があった。鉄を使った作品(Metal Works)を展示し…

自然(じねん)について

竹内整一東京大学教授の『「おのずから」と「みずから」ー日本思想の基層』(春秋社)は、日本的「自然(おのずから)」の思想伝統について、そのプラスマイナス両様にわたって考察した、思想史の力作である。丸山真男や相良亨の仕事を継承して、この論考で…

人生の極月(ごくげつ)

一昨日12/3(土)は、東京銀座某所にて高校の学年同窓会開催。Jリーグ優勝の帰趨を気にしながらの参加。入口で引いた番号くじごとに各テーブルにつく趣向なので、卒業時のクラスを越えて交流。わが隣に坐った髭の人に、「失礼ですが、どなたでしたっけ?」と…

「忠臣蔵」の季節

(表紙画:石井崇「マヌエラ・カラスコの踊り」) 開成学園文芸部OB会発行の『暁光以後8』(11月15日発行)を贈られた。高校時代の志の持続とも復活ともいえる文学活動に、敬意を表したい。目次は以下の通り。 バブルの塔:松浦宏光 p.1 詩3題:大岡俊明 p…

日常と非日常

大災害とあってはならない事故という非日常のなかにも、取り戻されるべき生活の日常はあり、ありふれた日常のいとなみのなかにも破滅や崩壊の危うさが潜在している。災害の情報と映像に慣れすぎるのは精神の弛緩と頽廃につながるが、日常の生活を堅実にこな…

共同体と人形

東北大震災以降共同体論議が相変わらず盛んなようであり、「オウム事件」の裁判にもいちおうの決着がつけられた、このタイミングで、かつて書いたエッセイ「共同体と人形」を再録しておこう。「十年一昔」の感慨を抱かせるのか、それとも変わらない思想・言…

立川志らくの落語論

「現代と古典に対する郷愁のはざまに立っている」とみずからを規定する、亡くなった立川談志門下の噺家立川志らくの『全身落語家読本』(新潮選書・2000年9月初版)は、師匠ゆずりで挑発的言辞が多いが、現代における伝統芸能を考えるうえで読む価値のある…

法曹人の教訓

たまたま入手した「Lawyer's MAGAZINE:7/1・22号」(C&Rリーガル・エージェンシー社)の表紙および巻頭で、弁護士の高井伸夫氏が紹介されていた。氏の個人ブログを時おり拝読しているが、この記事によって、高井氏の法曹界での評価と地位の高さが、門外漢に…

劇作家三島由紀夫の忌辰

本日11/25は、三島由紀夫の祥月命日。あの日は、たしか鷲神社の「三の酉」の日であった。 「文学は決して学問ではない。あえていえば酩酊をもたらすものである。健康にいいものとは思えない、だが止められぬ」と名言を吐いた、エッセイスト天野哲夫が亡くな…

〈江戸時代〉からの脱却

與那覇潤愛知県立大学准教授の『中国化する日本日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋)は、知的スリリングに満ちた書である。300頁ほどを二日で読了。「中国化」と「江戸時代化」という、対照的な社会構造あるいは文明にむかう方向性を類型化し、高校日本…

教育政策について学ぶ

岩木秀夫日本女子大学教授の『ゆとり教育から個性浪費社会へ』(ちくま新書)は、「教育問題には、究極的に自分がどのような価値を前提にしているのかが明らかでないと、視野が定まらない特徴がある」とのまっとうな認識をもった教育社会学者の論考である。…

廃墟のマリア—2009年「重力/Note」公演観劇記

12/18(金)は、東京北区豊島「シアター・バビロンの流れのほとりにて」に出向き、田中千禾夫原作、鹿島将介構成・演出の「重力/Note」公演『マリアの首』を観劇。劇場は、観客70人ほど収容の狭いスペース。しかし何かを生み出さんとのたしかな想いを感じさ…

蒼天

そろそろわが書斎のガラス戸の拭き掃除をしようかと、3月以降頻発した余震の際その度飛び出したベランダに立てば、秋の青空である。桶谷秀昭氏のかつて新聞に掲載されたエッセイ「蒼天」の一文を思い起こした。昔創刊号から定期購読していた、故村上一郎氏…

弱者の勁(つよ)さ

季節労働者から港湾労働者となって思索と著作に情熱を傾けた、アメリカの社会哲学者エリック・ホッファー(1902〜83)の『エリック・ホッファー自伝』(中本義彦訳・作品社)は、さすがにあっと虚を衝かれる文章に出会うことが多い。 28歳の時に、25セントで…

骨について

吉行淳之介のエッセイ集『女のかたち』に「骨」というエッセイがある。ある女性の「鎖骨並びにその骨の上の窪み」の「微妙な美しさ」を褒めたところ、相手は、訝しげな顔をしながらも笑ったとある。最後にこの作家らしく、女体について蘊蓄の一端を示して結…

3.11以前の文明論

3.11以降現代文明批判の論がメディアを賑わしている印象である。至便快適かつ、社会的地位もありそこそこリッチなみずからの生活を相対化しないような現代文明批判など、傾聴に値しまい。いっぽうで私憤と公憤をない交ぜにした議論も勘弁してもらいたい。3.1…

「逃亡者(のがれもの)おりん」

http://journal.mycom.co.jp/news/2011/11/08/054/index.html 来年1月から深夜時間帯で放送されるそうである。愉しみである。テレビドラマでは、NHK放送の「土曜時代劇・浪花の華〜緒方洪庵事件帳〜」の左近(栗山千明)、同じNHK「龍馬伝」の千葉佐那(貫…

かぜ声で—若林圭子リサイタル

(当日は、谷源昌=ベースに替わって、後明美佳=バイオリン) 昨晩は東京銀座「博品館劇場」で「若林圭子リサイタル」を聴いた。ここでの第9回のリサイタルで、「どんな声で」というタイトルで企画されたが、皮肉なことに、若林さん当日はかぜにて喉の調子…

自然と技術(再録)

アリストテレスの『自然学』第2巻第1章には「けだし、これら〔自然的に存在するものども〕の各々はそれ自らのうちにそれの運動および停止の原理〔始動因〕をもっている。そして、その或るものは、場所的意味での運動および停止の原理であり、或るものは量…

つっぱり老人蜷川幸雄

祝日の11/3(木)、東京荒川区西日暮里の開成学園・中学校講堂で催された「同窓会創立80周年記念講演会」に出席、講師蜷川幸雄氏の講演を聴講して来た。前数列が高校生であとは抽選で選ばれた父母と、同窓生らで、会場は補助席が設置されるほどの盛況であっ…

秋の花卉(かき)写真館

⦅写真(解像度20%)は、小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆ (この季節でも「百合の女王」カサブランカ) ⦅ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡)の実⦆ (シーマニア) ⦅常緑低木センリョウ(千両)の実⦆ ⦅アザレア(Azalea:西洋ツツジ)⦆

「キャタピラー」は老荘思想

10/30(日)WOWOWで、若松孝二監督の「キャタピラー」を放映。江戸川乱歩の「芋虫」が着想のもとにあるだろう作品で、四肢を喪い、キャタピラー(caterpillar:芋虫)のごとくなって戦地から帰還した夫と介護する妻の壮絶な日常を、リアルに描いている。寺島…

宗教教育について

社会学者橋爪大三郎東京工業大学教授の伝えるエピソードが興味を引く。友人のところへ、ある深夜ロンドンの「地球環境の国際会議」に出ていた役人から本省へ電話で、「stewardship」という語について問い合わせがあり、そこでわからず、教授に質問の電話があ…

統計数値の扱い

「天皇賞・秋」の馬券は、みごとに外してしまった。この秋のGⅠレースは、「秋華賞」のみ的中で、いまのところ1勝3敗の成績。快進撃だった昨年の実績「統計」と比べると寂しい限り、暮れの「有馬記念」にむけて態勢を立て直したい。 ところでこの統計数値と…