2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧
勢古浩爾氏の『思想なんかいらない生活』(ちくま新書)は、痛快にしてなお考えさせられる書物である。20代後半から30代にかけて、「わりと硬い本」を中心に、月数万円を本代に費やした経歴をもつ1947年生まれの著者が、その後文藝・哲学・思想関連の本…
近藤克則日本福祉大学教授の『「健康格差社会」を生き抜く』(朝日新書)は、「人を生物学的側面からとらえる現在の医学に、生物医学モデルから生物心理社会モデルへとパラダイムを拡張することを迫る」社会疫学の、これまでの実証的研究成果を踏まえて、人…
6/28の『罪と罰』のついでに、わがHP記載の『カラマーゾフの兄弟』についての記事を再録しておきたい。なお、ドストエフスキー作品中の花・植物については、すでに触れている。 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20101019/1287481056(「小説作品中の植物名」…
「東京新聞」6/27(モスクワ=共同)によれば、「ロシアの演出家ユーリー・リビューモフ氏が、収入にこだわる役者の姿勢に嫌気が差したとして、長年率いてきたモスクワのタガンカ劇場を去ることを決めた」とある。「国立レニングラードボリショイドラマ劇場」…
鈴木博之東京大学教授の『都市のかなしみー建築百年のかたち』(中央公論新社)は、文学的営為ともいえる建築学の泰斗のエッセイ集である。 現代日本の都市は、カラスのゴミあさりに対してネットという原始的な方法でしか対処できないほど、開発による〈無防…
6/24(金)は、千葉県市川市真間にある「市川市芳澤ガーデンギャラリー」を訪問、開催中の「市川市新収蔵作品展」を鑑賞してきた。京成市川真間駅より徒歩15分ほどで、穏やかな真間川をわたった、閑静な、そこここで、ダツラほか初夏の花咲き乱れる住宅街の…
そのオペラ作品『イポリートとアリシー』の初演が昔実現(2003年11/8・演奏会形式)している(こちらは、残念ながら聴いていない)、18世紀フランスの音楽家ジャン=フィリップ・ラモーの甥ジャン=フランソワ・ラモーをモデルとした、ディドロの『ラモー…
地中海文化を語る会編『ギリシア・ローマ世界における他者』(彩流社)所収論文、川島重成氏の「〈ダイモーン〉の顕現」は、『イリアス』『オイディプス王』『ソクラテスの弁明』に通底するものとして、〈ダイモーン〉経験があるとし、それは、人間を超えた…
東浩紀氏と大澤真幸氏との対談をまとめた『自由を考えるー9・11以降の現代思想』(NHKブックス)は、そのまま「3・11以降の現代思想」にスライドできるのかどうか。現代を、大澤氏は、「第三者の審級」の不在、東氏は「大きな物語」の消滅と捉えていて、「ち…
「日本経済新聞」(Web刊)6/18によれば、岡山市の千足(せんぞく)古墳で、幾何学文様を彫刻した仕切り石「石障(せきしょう)」が劣化し、保存のために取り外しが必要なことが判明したとのことである。原因についてはまだ解明されていないようで、「技術的…
今月は、TV放送で、藤原竜也を2回観る機会があった。映画とTVドラマの二つだ。映画は、WOWOWの6/3(金)放映の『パレード』。行定勲監督の作品で、恋愛依存症の娘琴美=貫地谷しほり、小さいころのDVのトラウマに怯える、イラストレーター志望の女未来=香…
多くの大震災の被災者に、生活資金&物資が依然としていまだ十分に届いていないらしいのは、痛ましく腹立たしいことであるが、想像するに、さらに、いちおうの生存が落ち着いた段階では、家族と個々人の秘密のようなものが守られず、互いに侵食されてしまう…
このごろは映画館に赴かず、映画鑑賞はもっぱらDVD(「Yahooオク」か、「Amazon」の「co.jp」「com」「co.uk」「fr」のいずれかで購入)のメディアを利用している。映画鑑賞の態度・習慣としては正統ではないだろうが、映画学者の加藤幹郎京都大学教授の『映…
「東京新聞」6/17夕刊紙上で、四方田犬彦明治学院大学教授が、「パリの映画的胃袋」と題して、パリでの映画を取りまく環境について述べている。映画制作の主体も、その過程も、国境・国籍が取り除かれつつあり、日本の映画の国際映画祭での受賞に、あたかも…
河本敏浩氏の『名ばかり大学生—日本型教育制度の終焉』(光文社新書)は、学力低下問題を中心とした現代日本の教育論議に欠けているところを明らかにしていて、学ぶことが少なくない。河本氏は、有名予備校講師の職にあり、社団法人全国学力研究会理事長でも…
永井均日本大学教授の『倫理とは何か』(産業図書)は、速読できるような書物ではない。西洋倫理思想史を辿りながら、道徳成立の哲学的根拠を執拗に追求している。M教授の講義と、それをめぐってのなかなか手強い聴講者(男女の学生と、アインジヒトという名…
「スポニチアネックス」6/15配信記事によれば、「14日(日本時間同日深夜)に英国アスコット競馬場で行われたG1セントジェームズパレスSに日本から挑戦したグランプリボス(牡3=矢作)は、ブービーの8着と敗れた。圧倒的1番人気に支持された昨年の…
精神科医斎藤環氏の『生き延びるためのラカン』(basillico)は、「日本一わかりやすいラカン入門をめざした」、ラカンの理論を解説した書である。行きつ戻りつして読まないとわからない。なにしろこちらは、ラカン派のスラヴォイ・ジジェクは読んでいても、…
6/13パリ発「ロイター」伝によれば、『91年に死去した仏歌手セルジュ・ゲンスブールの曲が、高級ブランドの香水のコマーシャルに相次いで採用されるなど、死後20年を経た今、マルチな才能を発揮した「伊達男」ゲンスブールの人気が再び高まっている』とのこ…
小島毅東京大学准教授の『近代日本の陽明学』(講談社新書メチエ)は、知的刺激に富んだ本である。陽明学的心性をキーワードとして俯瞰された近代日本思想史試論といえるだろう。王陽明の「知行合一」とは、「知に対する行の優位を強調するのではけっしてな…
今年は、アーネスト・ヘミングウェイ(1899年〜1961年)没後50年にあたるそうである。命日は、7月2日、まもなくだ。格別に好きな作家というわけではないが、長・短篇小説に感動した記憶はある。ひ孫のスタイル・アイコン、ドリー・ヘミングウェイの、フ…
木田元中央大学名誉教授の『反哲学』(新潮社)は、哲学という学問分野が決定的に西洋文化圏固有のものであり、その思考形式および問題意識は古代ギリシアから近代・現代哲学まで貫通していることを、各時代の哲学的思索をたどりながら繰り返し強調している…
中島義道電気通信大学教授の『悪について』(岩波新書)は、悪一般について考察した書ではなく、カントの倫理学の紹介でこれまで素通りしてきた問題を掘り下げて取り上げている。あいまいな理解であったところに光があてられてありがたい。 「きみ自身の人格…
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のシロタエギク(白妙菊=Senecio)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆ 世界史上知られた「リスボン大地震」は、1755年11月1日に起こり、津波を伴って町の大半が破壊され3万人の犠牲者を出している。ヴォルテール…
浅野裕一・湯浅邦弘編『諸子百家〈再発見〉ー掘り起こされる古代中国思想』(岩波書店)は勉強になる書物である。後漢時代の『漢書』芸文志による九流百家の儒家・道家・陰陽家・法家・名家・墨家・縦横家・雑家・農家に兵家を加えた諸子百家の思想および人…
◆アンソニー・ウェストン(Anthony Weston)著、野矢茂樹東京大学教授他訳の『ここからはじまる倫理(原題・A Practical Companion to Ethics)』(春秋社)は、これまでの日本の正統的な倫理学のテキストに比べて刺激的で格段に面白い。「道徳的相対主義」…
◆フランスの技術系リセの哲学教科書として採用されているという、ミシェル・オンフレ著の『〈反〉哲学教科書』(嶋崎正樹訳・NTT出版)の内容には、目を瞠ること多い。全3部構成で、第1部「人間とは何か」、第2部「いかに共存するか」、第3部「何を知るこ…
2003年の夏、広島へ行く「のぞみ」の車中でたまたま読んだ「週刊朝日・8/8号」誌上に面白い論評があった。弁護士の鈴木仁志氏が、翌年度から発足するロースクール(法科大学院)をめぐって述べたものである。 『法律家に本当に必要な能力は、映像的に物事を…
すでに廃刊している『大航海』07年67号「特集・中世哲学復興」(新書館)収録の「対談」、神崎繁氏と三浦雅士氏の「翻訳が創造したもの」は、素人が読むと瞠目の応答である。とりわけ、キリスト教の三位一体説の教義は、「ひとつのスプスタンティア(実体の…
◆内山勝利京都大学教授の『哲学の初源へ・ギリシア思想論集』(世界思想社)は、改めてギリシアの精神史・思想史について学ぶこと多かった本である。 古代ギリシア文化発祥の地イオニアのサモス島は、ピュタゴラスの故郷であり、対岸のミレトスと並ぶ繁栄を…