骨について


 吉行淳之介のエッセイ集『女のかたち』に「骨」というエッセイがある。ある女性の「鎖骨並びにその骨の上の窪み」の「微妙な美しさ」を褒めたところ、相手は、訝しげな顔をしながらも笑ったとある。最後にこの作家らしく、女体について蘊蓄の一端を示して結んでいる。
……女性からエロティシズムを感じるのに、それはしばしば骨につながる場合がある。細い骨のまわりを脂肪がしっとりと包み込んで、外側から全く骨を感じさせない女体がある。そういう場合、その骨に細いながらも、したたかな強靭さを覚えて、奇妙なエロティシズムを受取る。(『女のかたち』集英社文庫

 医学博士の鄭(てい)雄一東京大学教授の『骨博士が教える「老いない体」のつくり方』(WAC)は、骨の老化が即ち体全体の老化をもたらすことから、とくに病的老化を予防する必要と生活法を解説している。たしかな科学的知見にもとづいた教えなので、即効薬的あるいは万能薬的健康法の奨めではなくとも、安心して読むことができる。
◯手足の骨の形成過程で、軟骨組織と骨組織の橋渡しをする肥大軟骨という軟骨細胞が出現し、骨と血管を呼び寄せたあと、死んで(プログラム細胞死=アポトーシス)、骨と血管に将来の骨髄となる場所を譲る。
◯ある瞬間に、一人の人間の体のなかの数百万カ所で、リモデリング(壊し作り直すこと)が進行していて、約10年間で骨は完全に造りかえられている。
◯もともと昆虫の殻のように体の外に形成された骨格=外骨格は、人間の場合は、退化して、顔の骨・頭の骨・首の下の窪みを形成する鎖骨の一部に残っているのみである。外骨格以外の骨=内骨格は、軟骨から作られる。
◯骨を構成するのは、無機成分(9割はリン酸カルシウム)70%、有機成分(9割はコラーゲン)20%、そして水分10%である。無機成分と有機成分の材料を複合化することで、両者の短所を克服したすぐれた構造材料となっている。
◯骨の役割・仕事は、(1)体の物理的な支持、(2)血液を造る、(3)血中カルシウム濃度を一定に保つことである。
◯軟骨の構成は、有機成分25%(約8割はコラーゲン、2割はプロテオグリカン:含コンドロイチン硫酸)、水分75%である。
◯軟骨(関節軟骨)の役割・仕事は、(1)運動の際の衝撃を和らげる「クッショの役割、(2)骨と骨の運動を滑らかにつなぐ「ちょうつがい」の役割の二つである。
◯生理的老化に伴う有機成分の変化に加えて、関節のまわりの筋力が低下し、関節軟骨に過剰なメカニカルストレスがかかると、関節軟骨の変性が引き起こされる。老化に伴うもので、程度の差はあれ避けがたい。肥満および過激な運動・過度の運動不足・筋力の低下・関節のけがなどのリスクファクターで、軟骨の病的老化=変性の促進が引き起こされる。
◯軟骨の成分の一部であるコンドロイチンなどを飲んでも、分子量が大きく、吸収されず血中にも入らず、軟骨に到達しない。バランスのとれた食事を摂ることがたいせつで、サプリメントは必要ない。
◯マスコミの科学情報に関しては、(1)安全性、(2)コスト、(3)実現化技術の三点からチェックして検証する癖を身につけたい。
 こちらも整形外科のレントゲン検査で、骨盤の腸骨に生理的老化が見つけられていて他人事ではない。大いに勉強になった。

女のかたち (集英社文庫 10-F)

女のかたち (集英社文庫 10-F)

骨博士が教える「老いない体」のつくり方 (WAC BUNKO)

骨博士が教える「老いない体」のつくり方 (WAC BUNKO)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、上メランポジューム(Melampodium)、下ウィンターコスモス(ビデンス=Bidens)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆