ウェルベック『服従」は「予言の自己成就(ロバート・K・マートン)」を導くのか

simmel20.hatenablog.com
結局社会党とUMPは、ファシズムを恐れてイスラーム同胞党の支持に回り、ベン・アッベスが大統領となる。主人公フランソワは、イスラーム政権の教育政策の下では、教授職の続行は無理となり辞職するが、やがてすぐに大学庁長官に任命されるパリ=ソルボンヌ・イスラーム大学学長ロベール・ルディジェの説得により、信仰告白の儀式をへてムスリムとなり大学に復職するのである。エリートのムスリムとなるのであるから、一夫多妻の恩恵に与れることを、フランソワは期待してもいる。主人公の生き方のある一貫性が感じられて、そこも面白い。
……女子学生たちは皆が、どんなに可愛い子も、ぼくに選ばれるのを幸福で誇りに思うに違いないし、ぼくと床を共にして光栄に思うだろう。彼女たちは、愛されるにふさわしいだろうし、ぼくのほうも、彼女たちを愛することができるだろう。……(p.289)
 いろいろな料理についての記述が多いのは、フランス近代小説の伝統に忠実であるということであり、思想史的にも「西洋の没落」以来のいわば「没落もの」の範疇に属するのではないか。巻末佐藤優氏の「解説」の「イスラエル・インテリジェンスの元幹部」氏によれば、この作品がヨーロッパ人に強い衝撃を与えた要因は、「イスラーム国」の脅威と、ヨーロッパが内的生命力を喪失しているのではないかとのヨーロッパ人自身の危機感との、二つであると指摘している。なるほど。
 多面的で豊かな知的および痴的会話とともに饗される料理はともかく、主人公が呑んでいるブハ(チェニジアで作られているイチジクの蒸留酒)、ムルソーブルゴーニュの評価の高い白ワイン)、赤ワインリュリ、イルレギー・ブラン(白ワイン)など、入手できれば呑んでみたいと思った。
 さらに感心したのは、ファッションと風俗についても蘊蓄があり、現代という時代を否応もなく感じさせる小説であることである。ビスチェとか、下着のGストリング(ストリング)とか、調べてはじめたわかった次第。