ハロルド・ピンター(2)


 7/3(火)は、新国立劇場・小劇場で、ハロルド・ピンター作、喜志哲雄翻案、深津篤史演出『温室(The Hot house)』を観劇。まだ耳の不調が治っていないので、右耳に脱脂綿の耳栓をしての観劇。中央舞台の変則的座席。幕間なしで暗転するときにやや大きい音響あり、耳を塞いだ。舞台は、円板が回転し、その上に真紅のソファーや机と椅子、書類ケースなどが置かれる。患者が番号で呼ばれ扱われる国営の病院での事件が、この劇の物語。所長ルート(段田安則)と、職員ギブス(高橋一生)との奇妙な会話から始まり、院長ほかが患者らに殺害されて、ギブスが所長に治まる結末までの展開。院長の愛人の職員ミス・カッツ(小島聖)が絡み、もう一人の職員ラッシュ(山中崇)を含めて、それぞれ殺意を秘めた関わりが演じられる。
 じつは7/2(月)は、「欧州選手権」決勝スペイン対イタリアをテレビ観戦(もっとも終わりのところのみ)のため早朝起床。翌日も同じころ眼が覚めてしまい、寝不足気味での鑑賞。明らかに〈肉食系〉の小島聖さんが登場して、その官能的肢体を見せているときだけ覚醒し、すぐにまた眼が閉じられてしまう、その繰り返しであった。おそらく劇としての完成度は高かったかと思われる。喜志哲雄氏によれば、「ハックニーで生まれてケンスル・グリーン墓地に葬られるというのは象徴的である」そうで、いまでも地下鉄の駅がない、ユダヤ人が多く住む場所であったハックニーから、イギリスの社会で確固たる地位を獲得した、ユダヤ人劇作家ハロルド・ピンターにとって、社会的地位の上昇というのは切実かつ深刻な問題であったのだろう。絶えず微笑を絶やさず所長に接しながら、ついには所長を消してそのポストを手に入れてしまうギブスこそ、真に恐ろしい人間である。
 帰りの総武線車中では、立ったままうつらうつらとしていたのであった。
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のガザニア(Gazania)の花。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆