ソフィー・マルソー頌

mi-mollet.com

simmel20.hatenablog.com▼わが父は、邦画は嫌いでまったく興味がなく、観るのは当時二つあったロードショー館での西部劇を中心とした洋画ばかりであった。だから、小・中学生のころすでに外国のスター女優の名前を少なからず諳んじることができたが、男優はいてもとくに贔屓の女優はいなかった。その後仏・伊ほかヨーロッパ映画のお気に入りの女優が多数できたが、名前を列挙するほどのことではない。そのひとりに、「女優マルキーズ」で、十七世紀フランスの舞台女優を演じたソフィー・マルソーがいる。じつは文才豊かな彼女は、みずからの小説で主人公の女優に託して書いている。
「その幻の世界では、なにを話しても、文字遊びのようにどんどん点数が加算され、世界が危険なまでに活性化していく。そこでは〈人間〉と〈英雄〉が同一視され、誰もが〈私〉と〈彼〉のあいだをふらふらと行き来する。この世界から逃れるには、お酒で酩酊するか、戦士や狂人になるか、魔法使いになって陶酔しながら炭の上を歩き、踊りながら奇跡を願うしかない。この仮想世界では、人間の精神は、恐ろしいほどに陽気で、とらえどころがない。/人は幻の世界に入りこむと、魅力的な知性をもった、絶対になびくことのない悪魔に心を奪われ、不可能を追いかけてしまう。しかし、それで得ることができるのは、指に引っかかった数本の金髪と、肌色のガーゼのようにもろい蠅の脚ぐらい。」(『うそをつく女』金子ゆき子訳・草思社

simmel20.hatenablog.com