二階堂ふみは太地喜和子になる


 相関図|TBSテレビ:日曜劇場『この世界の片隅に』
 TBS日曜劇場連続ドラマ『この世界の片隅に』は、ヒロインすず(松本穂香)の小姑黒村径子を演じている尾野真千子とともに、呉市遊郭の遊女白木りん役の二階堂ふみの存在感が際立つ。この二人の女優は、室生犀星原作作品を基にしたドラマで、それぞれ老作家の恋人をすてきに演じているところが共通している。
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 二階堂ふみは、美形の女優のイメージとは遠いが、今回のドラマでもひとりの遊女の切なさと倦怠、官能性とやさしさをみごとに演じている。まだ世間的にそれほど注目されていなかったころ、東京世田谷区のシアタートラムで、川端康成の『みずうみ』に基づいた、岩松了作・演出の『不道徳教室』の舞台を観ている。すでにしてこの若い女優は印象的であった。
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 タイプ的に思い起こすのは、昔事故死した女優太地喜和子のことである。二階堂ふみは、太地喜和子になるだろう。また舞台でその演技を愉しみたいものである。

 1980年12月渋谷・東横劇場にて、水上勉作、木村光一演出の文学座公演『雁の寺』プログラムに、亡き蜷川幸雄太地喜和子について寄稿している。二階堂ふみにも当て嵌まるところがあろう。

 太地さんの演技の魅力はぼくにとって、ほとんど論理の痕跡をのこさない生理的にみえるそのあらわれかたにある。論理的とかさめた演技とか、一時期愚かな批評家がもてはやした新劇風演技から遠いところに太地さんの演技はある。だから太地さんの演技は輝いてみえるのだ。つまりぼくらは太地さんの演技に民衆をみてしまうのである。肉体の奥底でついに方向性を見つけることができず、途方にくれていながら表面はくよくよせず明るいふりをしてその日を過さざるをえない、あの民衆をである。