沢尻エリカのブランチ・デュボアは期待大:テネシー・ウィリアムズ作『欲望という名の電車』(2024年2月 新国立劇場)

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 テネシー・ウィリアムズ作『欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)』の舞台は、二つほど見ている。どちらも、主人公ブランチ・デュボア役の女優が頗(すこぶ)る美形ではまっていて、脇役陣も充実し愉しかった記憶がある。今回の鄭義信(チョン・ウィシン╱てい・よしのぶ)演出の舞台も、(お嬢さまから父の没落で闇落ちした)ブランチ役があの沢尻エリカであれば、(難役には違いないが)ピッタリの感じがする。期待するところ大だが、前列のチケットがとれるかどうか。

1979年2月劇団青年座公演 新宿紀伊国屋ホールにて

ブランチ役=東恵美子

▼東さんといえば、新劇界にもまれにみる美女である。おまけに芸への執念は、ひとかたならぬものを持つ人だと聞く。しかし素顔のご本人は、いっこうに美ぼうを鼻にかけるでなく、また激しい闘志を、いつも気品のある物腰と、穏やかな微笑に包み隠している風情なのが心憎い。(川本雄三)上演プログラム▼

1988年3月蜷川幸雄演出 帝国劇場にて
 邦訳タイトルが『欲望という名の市電』となっているが、原作では「Streetcar」。この蜷川演出の舞台設定が大正末期から昭和始めごろの日本のある都会で、電車では「省線」のイメージになり、原作では路面電車のことであるから「市電」とした由(製作:中根公夫)。蜷川幸雄が前年『NINAGAWA・マクベス』をロンドンで上演すると絶賛され、ナショナル・シアターのロビーVIPルームで、ある年輩の女性から次テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を日本に置き換えて演るのであれば、ブランチと妹ステラの名はその意味にふさわしい日本語の名前になさい、と助言されたとのこと。ブランチはフランス語「ブランシュ(白)」の英語訛り、ステラはイタリア語の「星」のこと。そこで、ブランチは雪子、ステラはきららとなっているわけだ。

ブランチ役=浅丘ルリ子
▼日本ではスターというものが必ずしも良い役者であるとは限らない世にも不思議な風潮がある。殊に女優に関すると、美しくあれば許される、人気があれば許されるというなんともおおらかな寛容さが芸能世界を広く覆っている。╱その中にあってルリちゃんという人は、大スターであると同時にまぎれもなく一個の名優である。╱悲劇の出来る俳優はざらにいる。╱しかし喜劇を演じたときに、演じ切る役者はまことに少ない。╱喜劇を演じるには技と同時に、人生を真剣に生きて来た役者の生き様のひたむきさがどうしても要求されるからだろう。(倉本聡)上演プログラム▼