『テレーズとローラン』観劇



 9/14(水)は、池袋の東京芸術劇場シアターウエストにて、地人会新社公演、谷賢一作・演出、ゾラ原作『テレーズとローラン』を観劇。この劇場は狭いので、思ったより舞台に近く、よく観え、よく聴こえた。難聴がだいぶ恢復してきた左耳は、まだ大きい音にノイズを混ぜて捉え、最初のシーンは役者の怒鳴る台詞の声がやや不快に感じられて困った。惨劇の後が劇の始まりで、時間系列としては遡行して、物語が展開する。エドワード・オールビーの『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない(Who's Afraid of Virginia Woolf?)』で始まり、ハロルド・ピンターの『背信(Betrayal)』のかたちで展開した舞台という印象であった。
 パンフレットで、京都市立芸術大学講師の中村翠氏は、「苦悩に満ちた真実と偽りの幸せというテーマは、ヴァーチャルを消費する現代においても語り直され続けるのである」と解説している。テレーズとローランが殺害してしまった病弱の夫カミーユは、舞台には登場してない。そのことは構わないのだが、イメージが希薄で、したがってテレーズとの日常的関係性について十分にはわからない。カミーユ殺しに至るテレーズおよびローランの内的過程が、(観客それぞれによるだろうが)台詞のみによっては納得し難いのである。二人の欲望とエゴイズムの激しさも、それほどは伝わっては来ない。
 役者は、達者であった。安心して観ていられる。かの蜷川幸雄が、『音楽劇・ガラスの仮面』のオーディションで見出したという奥村佳恵(かえ)の瞳は、大きく澄んでいる。暗い情念を潜めた表情を読みとろうとしているうちに、90分の上演時間で幕は下りていたのであった。




 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20100812/1281600805(「アメリカ演劇との付き合い:2010年8/12 」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120209/1328788615(「福田恆存生誕100周年:2012年2/9」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120702/1341211393(「ハロルド・ピンター(1):2012年7/2 」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120705/1341464497(「ハロルド・ピンター(2):2012年7/5 」)