1920年代と2020年代のベルリンのクラブ&キャバレー

 先日NHK・BS1で、昨年10月放送したとの『ベルリンを走る2022ー地球タクシー』という街の紹介番組を再放送していて、引き込まれた。それぞれのドライバーの人生の一端が垣間見られるお喋りも味があったが、いちばん興味を覚えたのは、夜のベルリンの風景について取り上げたところ。知らなかったが、ベルリンはクラブ(テクノ)文化の(世界の)聖地であるとのことで、1989年に始まったテクノの祭典「ラブパレード( Love Parade, Loveparade)」が、2007年に諸般の事情からベルリン以外の他都市で催されることとなった。それが2022年7月、生まれ変わったレイヴイベント「レイヴ・ザ・プラネット(Rave The Planet)」としてベルリンに蘇ったということである。
 旧東ベルリン地区にあるクラブ「ベルクハイン(Berghain)」は最も有名で、反消費社会を標榜し、現代消費社会を象徴するような世界的セレブすら入店を拒否しているという。しかしネットで調べると、入店を許されるか否かの明確な客観的基準はないらしい。面白い。

www.redbull.com  さてナチスが台頭しつつあった1920年代のベルリンを舞台にした、ドイツの連続テレビドラマ『バビロン・ベルリン』も主人公のゲレオン・ラート警部(フォルカー・ブルッフ)と、シャルロッテ・リッター(リヴ・リサ・フリース)刑事助手の二人が、クラブで、(ステージでプロの歌手が歌う)キャバレーで、よくダンスに熱狂する場面が多い。

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 1920年代のベルリンのキャバレーを舞台にした、ボブ・ホッシー監督、ライザ・ミネリ主演の米国ミュージカル映画『キャバレー(Cabaret)』1972年製作を連想させるが、じつはこちらは映画は観ていない。クリストファ・イシャウッドの小説と、ジョン・ヴァン・ドゥルーテンの戯曲をもとにしたミュージカル1966年ブロードウェイ初演で、日本での1982年初演の舞台化作品を観ている。映画はミュージカルの舞台をもとにしているのだ。ジョー・マテロフ(ジョー・マスタロフ)脚本、ジョン・カンダー作曲、渡辺浩子訳・演出、小池一子訳詞、東京銀座博品館劇場での舞台であった。ヒロインのサリー・ボウルズは順みつき

 海野弘氏は、上演プログラム寄稿の「踊るベルリン・キャバレーの時代」で、「19世紀はパリに象徴されているのである。そして1920年代を代表しているのがベルリンなのである」とし、「どんな境遇の、どんな風変りな人間でもいられるというのが、ベルリンの特徴であった。たとえば、ホモセクシャルは、パリなどの当時のヨーロッパの都市よりも、ベルリンは自由であった」。空間として、「街角の劇場であるキャバレーこそ、最もベルリン的なドラマの舞台なのだ」と。

 世紀末にすっかり足首までかくしていた女性たちは、20年代にはそれらを脱ぎすてる。裸体と性の解放の問題が20年代に提起される。そして、スカートが毎年短くなったり、長くなったりするというファッションのサイクルが成立してくる。
 新しい風俗現象の洪水は、混沌としていて、頽廃的とも見られた。女たちはそのような激流にに浮き沈みしながら、ある時は自由であり、ある時は悲惨であった。ベルリンの20年代が今なお私たちにとって新鮮なのは、現代都市の青春の時代であったからかもしれない。なんとあの時代は今日に似たところがあるだろう。たとえば20年代のベルリンの名物は女のレスリングの見世物であったという。今とちっとも変わらない。
 しかしその享楽と頽廃の陰に、ゆっくりとナチズムが迫りつつあった。1933年にヒトラーが政権を握ると、ベルリンではジャズが聞けなくなったのであった。陽気な馬鹿さわぎの時代は終った。『キャバレー』がそのような嵐の前のつかの間の時代の気分を切ないまでに伝えているのである。