このところHulu配信のドイツTVドラマ『バビロン・ベルリン』が面白く、シーズン1〜3をあっという間に観終えてしまった。ドイツで最新放映のシーズン4は日本では未配信である。待ち遠しい。
このドラマは、ワイマール共和政下のベルリンを舞台にしたドラマで、「黄金の20年代」の終幕1929年10/24(「暗黒の木曜日」)に起こったアメリカでの株価大暴落で、アメリカ経済に多くを依存していたドイツ経済が壊滅的打撃を被る、その直前までを時代背景(S1〜S3)にしている。ケルン市長への脅迫問題の解決を(市長から)依頼された警部ゲレオン・ラート(フォルカー・ブルッフ)がケルン市からベルリンに来てベルリン警察本部の風紀課に所属し、盗撮ポルノ映像を撮影している一味を上級警部ブルーノ・ヴォルター(ペーター・クルト)と共に探索する話と、ソ連邦からの物品輸入列車の別々の車両に秘かに金塊と毒ガスが積み込まれていて、金塊を第4インターのトロッキストらがイスタンブールのトロッキーの下に届けようと企むいっぽう、じつはブルーノ上級警部もその中枢の一人である、帝政復古と国家社会主義の「黒い国防軍」が毒ガスを(クーデターの)戦闘のため運搬していた話が錯綜し、遂には繋がってくる展開。。
やがてゲレオン警部の刑事助手として協働することになるシャルロッテ・リッター(リヴ・リサ・フリース)は、貧困家庭の次女、ただ一人の稼ぎ手で昼間はベルリン警察本部でアルバイト事務員として働き、夜はエドガー(ミシェル・マティチェヴィッチ)の経営するナイトクラブ「モカ・エフティ」の地下で非登録の娼婦として稼いでいた。ブルーノ上級警部はゲレオン警部の捜査の行き着く先が知りたくて、夜のシャルロッテの客となり金銭を渡したりしている。
シーズン4でゲレオン警部とシャルロッテとの男女の距離が恐らく大いに縮まると予想される展開(自然に求め合ったキスシーン)が、シーズ3の警察内写真技師の誕生パーティーであった。どうなるのか? そう思わせるのは、シャルロッテという女性の神秘的な魅力であろう。黄斑変性の眼病に罹患した姉の高額の手術費用を捻出するため、女装の妖しい〈ママ〉さんが仕切るナイトクラブのステージで、Sの男たちに囲まれて弄ばれるMの貴婦人との設定で、(鏡を前に「これがリッター刑事助手」と自嘲しつつ)濃く化粧したシャルロッテは四つん這いになって男たちの股間を弄ることもあった。正式に承認されることになった刑事助手として優秀で、検査技師の指紋証拠の捏造を見破りみずから危ない目に会うこともあった。
シャルロッテのほかも、登場する女性陣はどれも魔性の魅力を放っていた。とくに、トロッキストのアレクセイ・カルダコフ(イワン・シュヴェドフ)に恋人と思わせて接近し、じつはソ連邦諜報機関のスパイで、金塊を狙うベルリンのトロッキスト殲滅に導き、そしてナイトクラブ「モカ・エフティ」の男装の歌手ニコロスとして舞台に立っている、自称伯爵令嬢(じつは元伯爵家お抱え運転手の娘)スウェトラーナ・ソロキナ(セベリヤ・ヤヌシャウスカイテ)にはゾクッとさせられる。舞台で歌っている時のスウェトラーナは、まるで『エリザベート』での元宝塚(雪組)望海風斗のルキーニ( LUCHENI)のようであった。スェラトラーナは「Du bist dem Tod so nah.(君は死と隣り合わせだね。)」と歌っているから、むしろTod(トート)閣下か。細身で小柄ながら、豊満で締まったバストを惜しげもなく晒すシャルロッテとともに、この人の美しい肢体のヌードシーンにも驚き酔わされた。男優の三浦義村(山本耕史)のみ不必要に裸体を晒す日本の大河ドラマとは違うのである。
細かいこととして、登場する男も女もやたらと煙草を吸うシーンが多く呆れてしまう。この時代にはまだ煙草の健康への害については、認識がなかったのであろう。それにしても吸い過ぎだ。さらに男女ともダンスを楽しみ、みなすばらしく上手いのでこれにも驚嘆。
さてさてこれ以上はネタバレになるので筆を擱く。トロッキストのカルダコフがソビエト諜報機関の自動小銃の掃射を逃れてトイレの糞尿の穴に隠れるなど、文字通りのクソリアリズムもあれば、負傷した兄を救助できなかった戦争神経症により手の震えに悩むゲレオン警部の幻覚の場面など、シュールな映像表現もある。江戸川乱歩好みの貴婦人の闇落ちのエロスとマスク怪人による殺人、そしてルキノ・ビスコンティ監督の 『地獄に堕ちた勇者ども(THE DAMNED)』に重なる退廃的な倒錯なども、このドラマの刺激的なところ。
今回のドイツの政権転覆を企てた中心的主体のライヒスビュルガー(およそ2万3000人)には、現職の判事や元軍人・警察官が参加しているというから驚きである。しかも帝政ドイツの復活を掲げ、主犯の一人に「ハインリッヒ13世」を自称する〈元貴族〉がいるとのこと、まるで『バビロン・ベルリン』の世界そのものである。スウェトラーナが歌った「Du bist dem Tod so nah.(君は死と隣り合わせだね。)」の「Du(君)」とは、ヒトラーが首相に任命された1933年に終焉した、ワイマール共和政下の民主主義だったのか。
しかし日本のいまにあてはめて憂えるフリをするおっちょこちょい高齢者には耳貸さないこと、肝要か。
ま~だ 生きていた‼ こういうのを生きた化石というんだろ(笑)
— 植津孝行 (@munakatazin) 2022年12月19日
【!?】久米宏さん「終戦の1年前に産まれた。気が付かないうちに戦争に入っていった。あの頃と今は似ている、危機感を持っている」 https://t.co/yuCCuOsSnY
プラハのパーテルノステル。19 世紀後半に発明された乗用かごが常に循環するタイプのエレベーター。最近は少なくなりましたが、東欧やドイツでは今でも稼働しているパーテルノステルがあります ©Sandra Gasmi pic.twitter.com/KaKfdRhO1e
— Masayuki Tsuda (@MasayukiTsuda2) 2022年12月21日
『バビロン・ベルリン』のベルリン警察本部ビルで利用されていたのも、このパーテルノステルだった。