リンゼイ・ケンプの『フラワーズ』は観ている

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 リンゼイ・ケンプ(Lindsay Kemp)の代表的舞台『フラワーズ(FLOWERS)』は、1987年7月に東京五反田の簡易保険ホールにて観ている。少年のころから歌舞伎に馴染んでいるし、舞台の醸し出す異様な雰囲気に驚くことはあっても圧倒されることはなかったかと記憶している。その2年後1989年東京グローブ座での万有引力公演、寺山修司原作『奴婢訓』の舞台のほうが衝撃的であった。

『フラワーズ』はジュネによって触発されたイメージの中に、リンゼイの人生の物語がつめこまれてつくり上げられている。差別と恥辱、快楽と裏切り、芸術と通俗、賎しめられた者だけが持つことのできる表現の絶対的自由と高貴さ。ジュネのことばを借りれば、「私は自分の気の向くままに、男性も女性もごっちゃに、ディヴィーヌをみなさんに物語るといたしましょう」。リンゼイもまた、気の向くままに両性的で、地下の闇から、軽やかに光の空間へと飛翔させてくれる物語を、マイムとダンスによって語ってくれるのだ。私たちは、オペラやバレエやキャバレーやサーカスがまだ別々ではなかった時代の、夢幻劇へと誘われていくのだ。……海野弘リンゼイ・ケンプの芸術―「フラワーズ」』(公演パンフレット)

 リンゼイ・ケンプ・カンパニーは、性(セクシュアリティ)の次元の複数性―その暴力性、歓喜、神秘、恐怖、豊饒さ―をみごとに強調することによって、ある種の感覚的混乱を巻き起こすを目論んでいるのだ。
 つまり、男女両方の性を所有したり、一方の性をとりわけ強調することによって、性的な事柄を問題にするのではなく、むしろハイパー・セクシュアルなイメージが伝わりやすくするのである。
 そうした彼の舞台からインスピレーションを得た者の名を挙げれば際限がない。デビッド・ボウイケイト・ブッシュが、彼によって才能を開花させられたのは有名な話だし、ケン・ラッセルデレク・ジャーマンなど、さまざまな分野のアーティストやミュージシャンが、つねに彼から影響を与えられているのである。……植島啓司「魅惑のケンプ」(公演パンフレット)