現代詩誌『渦』18号から「渚」

表紙カット・西村宜造

               雨宮テイコ

眠りの浅瀬で夢をひろう
すでに記憶のものとなって
  変容しはじめているそれを
必死でつかまえながら
この世のひかりのなかへ帰っていった


帰って? そう言い表して
  よいだろうか
意識のがわに立つことは
存在のひとつの側面にしかすぎないのに
それだけを〈たしか〉だと思うことは……


初めて光りに曝されたそのものの
すこし青ざめた姿は
逃げ去っていったものの感触をわずかに遺し
こちらを見つめるようにしていたが
ふっとすきとおっていった


海よ 海よ!
わたしのものであって
  わたしのものでないそれを
いまも畏怖しているのではないだろうか
そのようにわたしがわたしを知らずに
生きていることのあやうさを……


今日という〈時〉を知らずに
行為のなかに置かれて在ること そして
よろこびさえつねに
その深みにささえられて在ることを……


この渚に日ごと打ち上げられては目覚めて
近づこうとしてきたものを
  今日も忘れることで
一日を成り立たせている