タイタンビカスとギリシア神話



 先日(9/5)老母の見舞いで台東区の介護付き老人ホームを訪問したとき、バス乗り換えで下車した東武向島駅そばの東武博物館入口の花壇に、タイタンビカスの大きな花が咲いていた。赤・ピンク・白・ローズ色の鮮やかな花弁は、通りで目立っている。アメリカフヨウとモミジアオイの交配種とのことである。なるほど花のかたちはアメリカフヨウ、草丈の大きさはモミジアオイのものである。
 http://www.jp-akatsuka.co.jp/shop/taitan/2014/(「赤塚植物園:タイタンビカスとは?」)

 タイタン=Titan(女性形Titaness)という名前は、カール・ケレーニイ(Karl Kerényi)の『ギリシアの神話・神々の時代』(中央公論社高橋英夫訳)によれば、「太陽神につけられていた期間がもっとも長かったもので、もともとは天上の神々の高位の称号であったらしい」ということで、天の神ウーラノスと彼の妻なる地の女神ガイアとの間に生まれた、6人の息子ーオーケアノス、コイオス、クリーオス、ヒュペリーオーン、イーアペトス、クロノス(末っ子)と、6人の娘ーテイアー、レアー(レイアー)、テミス、ムネーモシュネー、ポイペー、テティスの12人が、タイタン(ティーターン)神族である。
 ウーラノスは、子供たちをはじめから嫌っていて、「子供たちが生まれると、彼はいつも彼らを隠してしまい、光のなかへ上がってこないようにしていた」のであった。そこで神話の惨劇が起こったのである。
……この子供たちに向かい、なかでもとくに息子たちに向かって、ガイアは心悲しみながら語った、「ああ、わが子たちよ、しかしまた、かの呪わしき父の子たちよ、わたしのことばを聴いて、おまえたちの父の悪しき非道を罰してはくれぬか。あの男こそ恥知らずの所行を最初に考えついた張本人なのですよ。」一同は驚き、だれも口を開くものはなかった。ただ邪(よこしま)な考えをもった大いなるクロノスが勇をふるって言った、「母上、わたしがその仕事をすることをお約束します。わたしは呪わしき名のわれらの父のことなど気にかけませぬ。父こそ恥知らずの所行を最初に考えついた張本人なのですから!」これを聞いてガイアは喜び、彼を待伏せに適した場所に隠し、その手に鎌を渡し、すべての奸計を打ち明けた。夜とともにウーラノスが来て、愛に燃えつのってガイアを抱き、すっぽりとその上に蔽いかぶさったとき、息子は待伏せの場所から左手でウーラノスをつかんだ。そして右手で大鎌をとると、すばやく父の男根を切りとり、背後へ投げすてた。……(p.34)