雨宮テイコ詩集『雨のなかの月』より


 雨宮テイコさんの詩集『雨のなかの月』(東銀座出版社)は、1992年4/1に上梓されている。梅雨時のいま改めて読んでみた。その中の一編。


薔薇


朝の冷たい風は
どこから吹いて来るのだろう
それは遠いところから 夜のむこうから
時も手の届かないところから
不思議な静けさとともに寄せてきて


野の草を優しく目覚ますもの
木の枝にそっと触れては
森の一日の序曲を告げるもの
不眠に火照る目を冷やし
愛の傷口を新たに切り裂いていく風よ


わたしは日毎におまえに洗われるものでありたい
朝の光と風の幸せな歌に耳を奪われながら
流れ出る血で一輪の薔薇を編むものでありたい



⦅写真は、東京台東区下町民家のホタルブクロ(蛍袋)その3。小川匡夫氏(全日写連)撮影。コンパクトデジカメ使用。⦆