吉田松陰の辞世

(表紙:石井崇)
 http://www.oliva2004.net/(「イシイタカシの世界」)
『暁光』(開成学園文芸部OB会)9:2012冬号が発刊された。志操の継続を慶びたい。
 いつも虚実皮膜の間を遊ぶ戯作者風物書きの松浦宏光さんが、今回は道化の仮面の下から時おり本音らしき弱音を吐いていて面白く、一気に読めた。
 新井良和さんの『詩三題』中の「下る」を読んで、NHK・BSのドラマ『アテルイ』を観ておけばよかったと悔やんだ。
 大岡俊明さんの『詩四題』中の「冗談」の第4聯、
…花と虫を見ているこのごろ
 鳥と風を見ているこのごろ
 人生の落とし所が 
 花鳥風月であったなどと
 おっかしくて言えたものじゃないのだよ。…
「よおっご同輩!」などと書いたら、S予備校世界史カリスマ講師のキャリアをもつ詩人に失礼であるか? それにしても詩の活字が散文の活字と同じ大きさであるのは、いただけない。
 中世国文学者松村雄二さんの『凸凹言いたい放談』は、ご隠居が聞き役の八五郎を相手に、まるで西部邁翁のように天下国家を憂え悲憤慷慨して語るという展開。今号も映画についての蘊蓄を知らされるかと思ったところ、肩すかしであった。興味を覚えたのは、吉田松陰の辞世に関するところ、
……そういえばこの前、I都知事が突然保守新党を立ち上げようってんで都議会に辞表を出したナ。さっきお前さんが話に出した新しい自民党総裁のAが、Iの政界復帰の感想を訊かれて「Iさんは『留め置かまじ大和魂』という気持ちで決断したんでしょう」といかにも知ったかぶりをして言った。吉田松陰の辞世を引用して気取ったんだが、肝心の歌の文句を間違えてたナ。あれは「留め置かまじ」ではなくて「留め置かまし」だ。「まじ」だと「大和魂を残して置くまい」と松陰の志とは真逆になってしまう。文法の知識も知らずに引用しているわけだ。NHKが夕方出したフリップでも、誰も指摘できなかったのか「留め置かまじ」と濁点つきのまま出ていた。情けない教養だ。……
 ネットでたしかめたところ、A=安倍総裁が事実「留め置かまじ」と発言したようである。
 http://www.ytv.co.jp/blog/announcers/michiura/2012/12/post-1452.html#comments(「道浦俊彦TIME」)
 安倍総裁は衆議院議員選挙を前にして、慣れているはずの辞世の歌のことばをうっかりしてミスったものだろう。むしろNHKのほうが感心しない。チェック機能が劣化しているのだろうか。ただし大河ドラマ『八重の桜』では、とうぜんであるが正しくテロップが表示されていた。 
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の 、ハルサザンカ星飛竜 。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆