浦上真二「吉本隆明とフリードリッヒ・リスト」

 
 浦上真二氏のエッセイ「吉本隆明とフリードリッヒ・リスト」を知り、掲載している『飢餓陣営』(編集工房・飢餓陣営発行)41号をさっそく取り寄せた。見開き2ページの短いものであったが、参考にはなる。リストの著書を読んで書かれた詩作品の題名もわかった。「一九四九年冬」という現代詩である。
……

頭から蒲団をひっ被って
フリードリッヒ・リスト政治経済上の遺
書を読む
〈我々の弱い視力で見得る限りでは、次
 の世紀の中頃には二つの巨大国しか存
  在しないだろう(F.リスト)〉

  ぼくはここに
  だがひとつの過誤をみつけ出す
  諦らめて
  ぼくの解き得るちひさな謎にかへろう
  一九四九年冬。〉
 浦上氏は、「吉本さんはリストの何に関心をもったか」と問うて、
……実は先程の詩のなかで引用されたのはフリードリッヒ・リストの『ドイツ人の政治的経済的国民統一』(改造文庫、昭和十六年刊)の結語部分からのものである。リストの当該著書は、吉本さんの詩の約百年前に書かれた。そこでの「二つの巨大国」とはイギリスとアメリカ合衆国である。吉本さんの時代に於いてはソビエト連邦アメリカ合衆国ということになる。だが実はそれは吉本さんにとって大きな問題ではなかった。だからこそ「ちひさな謎にかへろう」と書かなければならなかったのだ。
 つまり、吉本さんがリストから学んだのは「経済学上の知識」ではなく、「二つの巨大国」に挟まれた国の思想家の在り様ということであった。たとえ彼が「過誤」に満ちていた人物だったにせよ。……( p.187 )