これからの職業観

 元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長であった村上憲郎(のりお)氏の『一生食べられる働き方』(PHP新書)は、本としての軽さはともかく、内容的には、これからの教育について考える上で示唆するところがある。日立電子の技術者として職業人生を出発させ、会社を替えながらセールス、マネジメントと異なる職種も経験し、一貫して「コンピュータ業界におけるセールスとマーケティング」のプロとしてのcareerを積み、得られた経験とノウハウを一般化してcareer passを切り開いた人の言だけに説得力がある。現役職業人へのアドバイスなどの多くはパスして、学校教育に関わりそうなところを取り出してメモとしたい。
◯働きはじめたとき、私にとって働く意味とは「食うため」でした。身も蓋もない言い方ですが、なぜ仕事をするかというと、明日の食料に戦慄するからです。
 働かなくては明日食うものがない、と恐れおののく。それが働くことの根底にあるんだということを一回とことん考えてみてはどうでしょう。(p.29:なるほど、乱暴な提言に聞こえて、知恵がある。「働くことの意味」ばかり考えているうちにリストラに遭えば、立ち直りが遅れるだろう。)
◯必要かどうか、使えるかどうかに関係なく、とりあえず知らないことや疑問に遭遇したら、そのまま放置しないで、調べて、調べた知識を頭に入れてしまうのです。
 こういうタイプは「お前がそれを知ってどうする?」とからかわれることもあるかもしれません。けれども、大局観を身につけるなら無理にでも視野を広げること。遠慮してはいけません。(p.75:しかし学校教育において、特定の事柄について調べることを強制してもあまり効果はなかろう。)
◯次々に技術革新が出てくるなかで、国内の競争を通産省主導である程度排除し、まずは国として国際競争力をつけていくというやり方は、結果的にうまくいきました。現に、このところ経済成長著しい中国の社会主義市場経済というのは、要するに戦後日本の国家資本主義戦略をそのままなぞったものです。おそらく、途上国が先進国にキャッチアップしていく段階では有効な方法なのでしょう。
 ただ、はっきりいえることは、日本においては、すでに二〇年前からその有効性が、失われていることです。にもかかわらず、相変わらず日本人は戦後の成功体験を握りしめているわけです。(pp.106〜107:かつての成功体験を握りしめて自滅していく、「モンキートラップ」に嵌っているということだ。それでも今年の読売巨人軍は強そうだが。)
 http://d.hatena.ne.jp/hiro_inoue/20060620/1150776049(「モンキートラップについて」)
◯今後、日本の会社はグローバルスタンダードにしたがって、適法に運営されなければ社会的に許容されなくなっていきます。というと、散々いい尽くされたことを蒸し返すようではありますが、ほんとうにその意味を理解している人は残念ながら少数です。(略)
 しかし、これからはルールを杓子定規に守らなければ、会社はもちろん、そこに勤める人も、それまで築き上げてきたものを一瞬で失う時代がくるのです。(p.139:数年前にオリンパス経鼻内視鏡で胃・食道を診てもらったことがある。無痛。この高性能は日本の誇れる技術。)
◯問題をはっきりさせるためにあえて乱暴な言い方をしますが、いまどき博士号を取っても英語さえ話せるようにならない大学に行っても仕方がありません。大学を出てビジネスをやるにせよ、研究の道に進むにせよ、世界を相手にするためには英語ができなければ話にならないのですから。(p.148:大学で英語使用のみの授業をどんどん増やしていく必要があるのだろう。ボス支配の閉鎖的人事があるとすれば、これも打破しないとダメか。かかわりがない世界でわからない。)

一生食べられる働き方 (PHP新書)

一生食べられる働き方 (PHP新書)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のパンジーの花。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆