公立と私立の共存

 瀬川松子さんの『亡国の中学受験—公立不信ビジネスの実態』(光文社新書)は、現代日本の学校教育を考えるときに有益な本となっている。著者は、大学院博士課程に籍を置いているが、進学塾や家庭教師派遣会社などで中学受験の小学生を教えた豊富な経験をもっているらしく、統計調査ではなかなか見えてこない、業者・学校関係者・父母の本音が集められていて、問題の実相がよくわかるのである。
 畢竟教育もビジネスの一分野として存在しているのであって、少子化のなかで「子どもの将来」にできるだけ多く投資させることに全力が注がれているということになる。公立上位進学高の昨今の躍進を軽視しつつ公立高校のダメさ加減を過大に強調し、公立高校全体の進学傾向と一部の私立進学高の進学実績と比較する議論の詐術によって、全私立中学・高校進学および受験のメリットばかりを宣伝する、進学塾およびその代理人のような教育関係者(評論家)の言説・姿勢を批判している。
 けっきょくは「地アタマ」のよい子どもが、どこへ進もうと各段階の入試の難関をクリアできる現実があるのであり、進学校としての評価をあせり背伸びしたカリキュラムを設定する私立中高へ入れても、能力がないとじっくり基礎を固めてから学べば伸ばせたはずの力さえ身につかなくなっている実態を紹介している。また私立中高にもいじめなどの生活指導上の問題が、程度の差はあれ生じている。ようするに公立の学校対私立の学校という比較対照は無理で意味がないということなのだ。小学生・中学生を抱える親たちは、瀬川さんのギャグを交えて刺々しさを押えた警告に耳を傾けたらよろしかろう。
……自分の限界に無自覚であったり、目標設定を誤ったことによる不幸というものも、世の中には存在する。時に、あきらめることによって、一気に別の可能性が開けるということもある。一つの目標に向けて取り組むことと同じくらい、発想の転換も大事なはずだ。
 現在の中学受験が、その低年齢化によって、「断念」という選択を困難にしているのだとすれば、それは、決して肯定的に語ることのできない現実である。……
 http://d.hatena.ne.jp/u2takada/20120321/p1(「首都圏公立高校の復権」)
 http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20120326/dms1203261558007-n1.htm
(「麻布高校の場合」)
 http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20120325/dms1203250730004-n1.htm(「開成三冠」)

亡国の中学受験 (光文社新書)

亡国の中学受験 (光文社新書)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町の寒桜。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆