次の津波は国債暴落か?


 ムーディーズジャパン格付けアナリストを経て、現在首都大学東京の教授である松田千恵子氏の『国債・非常事態宣言』(朝日新書)は、論理展開は必ずしも明快とはいえないが、現代日本の財政危機について素人でもわかりやすい解説書となっている。
 2011年8月時点での日本国債の「格付け」は、格下げにあっても「AA(ダブルA)」でそれほど悪くはない。これはある「からくり」があるためである。その裏を確証するのが本書の意図ということだ。
◯日本国の借金=(普通)国債残高は、約668兆円、税収約41兆円をすべてその返済に充てても約16年かかる計算。「普通国債」、「財投債」、「財投機関債」、「地方債」など「公債」と、国・地方自治体が金融機関から借り入れている「借入金」の合計は、2011年6月末時点で約944兆円。さらに「政府保証債務現在高」と「地方長期債務」を足すと、国・地方の債務は、約1156兆円に達する。
◯日本には1400兆円の金融資産があるから安心との虚妄—1)勤労者世帯の給与収入が減り、高齢化により貯蓄の取り崩しが進む。2)金融資産残高には家計の負債残高が含まれていない。含めて計算すれば、純金融資産残高は、約1110兆円、すでに国の借金の総額を下回る。3)しかもそのうち548兆円は国債購入に使用済みで、残りも有価証券投資に回されたり、銀行で企業に貸し出されたりしている。4)国内債だから大丈夫とはいえない。国の借金が家計の金融資産を上回れば、海外投資家に国債を買ってもらわなければならない。すでに中国は日本の長期国債を多く所有している。
◯対外純資産が大きいから大丈夫との虚妄—1)外国人投資家にとって日本の株に魅力がないということ。2)日本の投資家にとって、海外の投資先のほうが魅力がある。3)日本の海外投資で得られる所得収支はそれほど多くはない。4)輸出企業が海外へ脱出する傾向が強まれば、日本経済の活発さを奪うことになる。 
◯借金を返す方法は、1)お金が入ってくるあてがあるか、2)何か売って返せるような資産があるか、3)ほかから借りて返せるあてがあるかの三つ。国債は、3)を常に繰り返している。
……しかし、こうした深刻な問題でありながら、日本政府をはじめとして金融機関や国民に至るまで、動きはどうも鈍いように見えます。東日本大震災でもいわれましたが、日本人は確率論よりも決定論に傾きがちなので、「安全だといったら安全」「ゼロかイチかの問題で、ゼロがでたならもう何をやってもダメ」といった方向に流れがちなのでしょうか。あっけらかんと暴落論を唱えたり、IMF傘下に入ることを望んだり、さらには「いったんダメになったほうがよい薬になる」などと、“創造的破壊”を唱える人たちもいたりして、いったん事が起こってからの影響の大きさというのをイメージできていないのではないかとさえ思います。ギリシャアイルランド、さらにはまだ健康体であるうちに大規模な改革を行った英国でさえ、国民のこうむった痛みは非常に激しいものです。(同書pp.193〜194)
 なおサブタイトルに『「3年以内の暴落」へのカウントダウン』とあるが、本文中では、数年以内に危機が訪れようと述べているのみで、これは売らんがための(担当者考案の)副題であろう。「オオカミが来た」の少年になってしまうぞ。困難な課題への対処は、「政府におけるスピーディーかつ的確な戦略構築と実行能力にかかっている」ということになる。

国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン (朝日新書)

国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン (朝日新書)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、上ピラカンサ(トキワサンザシ)、下ランタナの実。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆