胎児・子供の放射線被曝

 某経済学者が批判するように、「子供」とか「母親」というアイコンを使って、放射能汚染のリスクをことさら過剰に言い立てることは警戒しなければならないにしても、「医学的にいうと、分裂さかんな細胞ほど放射線により傷を負いやすい。その点では放射能汚染から守るべきは子どもであり、妊婦である」(浦島充佳『放射能汚染・ほんとうの影響を考える』化学同人)のはまちがいないことだろう。1986年チェルノブイリ原発事故の影響に関する同書の考察をたどってみると、放射性ヨウ素131による小児甲状腺がんの発症がいちばんの問題のようである。2005年時点で14歳以下の5127人が甲状腺がんと診断され、内9人が死亡。18歳以下では6848人が相当し、内15人が死亡している。99%以上は治る甲状腺がんであった。しかし周辺地域で「25年経ったいまでも甲状腺がんの発症はバックグラウンドレベル(※自然放射線のレベル)には復していない」事実はある。
 小児白血病については、「世界では時どき子どもの白血病が集団発生すること」があり「その病因はさまざまで」、放射能汚染との因果関係は科学的に不明のようである。「孤立した地域への急な人口の流入=PM(population mix)」によって、白血病を引き起こすウイルスに免疫をもたない子供たちが、5歳以降のそのウイルス感染で罹患してしまうという仮説もあるらしい。
 母親たちにとっては、(差別的意味ではなく)先天奇形が発生することが心配であろう。小児科医浦島充佳氏は、同書で述べている。
福島第一原発事故のフォールアウト(=放射性降下物)による被曝量は日本の多くの県で事故前のせいぜい数倍のレベルである。その胎児への影響を調べるには、日本の現状に近いチェルノブイリ原発事故後のヨーロッパ各国の状況が参考になるはずだ。国ごと、ヨーロッパ全体の調査があるが、心理ストレスによる自然流産は増えたものの、奇形が増えるということはなかった。』(同書p.179)ただし、チェルノブイリから西250kmの旧ソ連ウクライナのロブノ州北のポリシアでは、結合双生児ほか先天奇形が増加していた。ここの住人は、俗世間とは隔絶した生活をしていて、「森の住人」と呼ばれているそうで、「私は森の住人のあいだで小頭症、小眼球症が多いのは、セシウム137を含んだ森の恵みを妊娠初期の女性が食したことによると思う。日本においても注意が必要だ」と、浦島充佳氏は注意を促している。扇動的情報に惑わされて怖がりすぎる必要はないが、油断も禁物であろう。
 http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/thyroid.html田崎晴明甲状腺等価線量と実効線量について」)
 http://d.hatena.ne.jp/buvery/(「buveryの日記」ブラジル・ゴイアニア事故のセシウム汚染)
 http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-entry-29.html(バズビー氏とは?)
 http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-entry-39.html(ドイツメディアとは?)
 http://blog.livedoor.jp/kamokaneyoshi/archives/52538309.html(被曝線量の評価)

 ソ連邦の映画で、結合双生児が出てくる作品を思い出した。かつてわがHP記載のこのDVD鑑賞記を再録したい。(なお英語の「freak」は、英和辞典『O-LEX』などで、「先天奇形」の意味では差別的・侮蔑的用語のラベルあり、使用に適さないようだ。心したい。)
◆アレクセイ・バラバノフ監督の『フリークスも人間も』(DVD/UPLINK)は、奇怪な映画である。若い女性の生の尻を鞭で打つところを撮った写真を撮影販売している一味によって、裕福な鉄道技師と医師の二つの家庭が崩壊し、病死した鉄道技師の娘と殺された医師の妻が、映画の尻打ちのモデルとされてしまう残酷な物語。舞台は20世紀初頭のロシアのサンクトペテルブルクである。登場人物以外あまり通行人が現われない白夜のこの街の映像は不気味に静かで美しい。

 医師はシャム双生児(結合双生児)ほかの2人の少年を養子として引き取り育てていた。二人は音楽のレッスンを受け、オペラを歌うフリークスとして舞台に引っ張り出された。娘と双生児は街を脱出し、それぞれ西と東に旅立つ。西の街で娘は体が疾き、尻を鞭で打ってもらえる男を買ってしまい、東の街ではシャム双牛児の一人は、写真屋一味から覚えさせられた酒による急性アルコール中毒で舞台に立つ前に死んでしまう。盲目の医師の妻は、写真売りの異様な笑い顔の男に恋してしまい、なすがままとなり、集められた男たちの視線に裸身を晒しながら、使用人であった女からその剥き出しの尻に鞭を打たれ映像に撮られる。その後に起こったロシア革命とは壮大な尻打ちであったと、この監督は主張したいのであろうか。それにしても、買った男に背後から鞭で打たれ続ける少女(ディナラ・ドルカロワ=可愛い)の苦悶と愉悦の表情を観て、人間の欲望の謎のような深淵に驚かない人はいるのだろうか。 
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の千日紅。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆