◆コペルニクスの場合
……例えばコペルニクスです。ドレイパー(1811〜82:イギリスで生まれ、アメリカで活躍)のように、彼を「科学」の立場で理解し、「科学者」として眺めると、コペルニクスがカトリックの司祭であったことも、彼の所論に当時のカトリック教会の最高責任者たるローマ教皇が興味を示し、できるだけ早く出版するようにという意志を伝えさせたことも、見過ごされてしまいます。(略) 例えば、今、日本の小学生や中学生に、次のような質問をしたとしましょう。
次のなかで正しいと思うものに◯をつけなさい。
1)コペルニクスは地動説を提案したために教会から弾圧された。
2)コペルニクスは地動説を提案したために教会から死刑にされた。
3)コペルニクスは地動説を提案したために教会から投獄された。
4)コペルニクスは地動説を提案したために教会から褒められた。
すると、このなかでは正解といえる(4)に◯を付ける生徒は皆無です。あとは驚くなかれ(2)を選ぶ生徒さえ30パーセント近くを占めることがあるのです。(村上陽一郎『科学の新しい見方』NHK人間大学1997年1〜3月テキスト)
◆ガリレオの場合
……しかしこの裁判の根拠となったこの戒告書というのが、最近の研究によると一種の怪文書であり、この文書が書かれたときの証人もなく、印章もなく、また上司の枢機卿の署名もない。これはガリレオの敵対者たちが彼をおとし入れるために異端審問所の書記を買収して書かせた偽造文書である疑いも濃いのである。実際ガリレオ自身が了解している一六一六年の口頭の通告は、さきのベラルミーノ枢機卿の「証明書」に明らかなように、コペルニクス説を抱懐し弁護することだけを禁じているのであり、これを学問的に論じ教えることについてはなんらの制約も加えられていなかった。そこでガリレオも地動説を学問的に論ずる書物を公にすることが、この警告に抵触するとはいささかも考えていなかったわけである。したがってガリレオの宗教裁判は法王庁の陰謀によってデッチ上げられたという可能性もあり、法的根拠のないにせ文書をもとにして有罪の判決が下されたともいえるのである。(伊東俊太郎『人類の知的遺産31・ガリレオ』講談社p.60)

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