天才子役のその後

 
 ルネ・クレマン監督の映画「禁じられた遊び」では、ナルシソ・イエペスのギター演奏とともに、孤児収容所に連れて行かれる、ブリジッド・フォッセイ演じる少女ポーレットが、引き裂かれるように別れねばならなかった少年ミシェルの名を連呼して駅の雑踏を走るラストシーンに、忘れられない感動を与えられた。東北大震災での津波の残酷な仕打ちがもたらしただろう悲劇は、いずれ時間の熟成を待ってすぐれた鎮魂の映画作品を生むことを願いたい。
 このおそらく映画史上最高の名子役であったブリジッド・フォッセー(Brigitte Fossey)は、その後大人の女優として多くの作品に出演しているようだ。(下は、「ニュー・シネマ・パラダイス」での紹介。)

 このなかでは、「バルスーズ(LES VALSEUSES=睾丸の隠語)1974年仏作品」と「ニュー・シネマ・パラダイス 1989年伊・仏作品」の二つだけ、どちらもDVDで観ている。そして二作品とも、人妻の「禁じられた遊び」を演じているのである。
バルスーズ」は、アメリカ版で「Going Places」のタイトル。監督は、ベルトラン・ブリエ、出演陣は、ジェラール・ドパルデュー、ミュウ=ミュウ、パトリック・ドヴェール、ジャンヌ・モローイザベル・ユペール、そしてブリジット・フォッセーという豪華なキャスティング。ドパルデューとP.ドヴェール演じる二人の若い男が、行きずりの女たちに破廉恥な振る舞いをし放題のロード・ムービーである。列車に乗って来たブリジット・フォッセーの人妻の上半身を脱がして、無頼者の二人が愛撫する場面のみの出演だが、興奮させられる。人妻は次第に息が早くなってしまう。人妻は、次の駅で何事もなかったように降車して、出迎えた冴えない感じの夫と抱擁する。可笑しく、嗤える。




 ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」では、行き違いから初恋を実らせることなく30年経ち、恩人である映写技師アルフレードフィリップ・ノワレ)の葬儀のため、故郷シチリアに帰った、成功した映画プロデューサー、サルヴァトーレ(ジャック・ベラン)が、街で初恋の相手エレナの美しい娘を見つけその後を追ってついに、エレナの住まいにたどり着き、エレナ(ブリジット・フォッセー)と、車中で一度だけの「禁じられた遊び」に、儚い陶酔を味わう。ほっとさせるようで、哀切なシーンであった。


 とまれこの女優は、実人生のどの年齢で出て来ても深い印象を残すのである。
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のオキザリス・ボーウィー(Oxalis bowiei:ハナカタバミ)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆