飲み水と食の安全性

 いくつかの浄水場での放射線量の値が、健康保証上の基準値を上まわった事実が報道されている。経過についてはむろん注意したいが、いまのところは、狼狽えて怯えるほどではなさそうである。一昨年わがHPに記載したことを再録し、それこそメディア・リテラシーを想起したい。

◆もと東京地検特捜部検事の郷原信郎桐蔭横浜法科大学院教授の『思考停止社会』(講談社現代新書)は、現代日本で、「法令遵守」の要請が、あたかも水戸黄門の「印籠」のような絶対性を帯びて社会を動かしていることを、例証をもって警告している。その一つが食品の安全性をめぐる問題である。「不二家」の消費期限切れ原料牛乳使用事件と、「伊藤ハム」の使用水中のシアン化合物検出事件の二つを取り上げて、当時のメディアと世論の科学的根拠なき追及について論評している。
不二家」がシュークリームの原乳は、超高温殺菌の牛乳で「賞味期限」表示でよかったのに、あえて「消費期限」表示にしたのは、製造過程で一部に金属製の非密封容器を使用していることから、完璧な安全性を考慮したためであった。最終の菌検査も行われていて、衛生上まったく問題は生じていなかったそうである。ところが外部コンサルタントが、この事実(「消費期限」切れ牛乳使用もあった)を公表しないことは、「雪印の二の舞」となるとの報告書を作成し、それがたまたまメディアに漏れて、「隠蔽工作」との大合唱が生まれたのだ。いまは「東京オリンピック」開催で(おそらく高額のギャラを貰って)旗ふりをしている一人のタレント司会者が、テレビ番組で「製品を店頭から撤去すべし」と連日先導していたことは記憶に新しい。 「伊藤ハム」の場合は、柏市の同社工場の定期検査で、使用地下水から水道法基準値を上回るシアン化合物が検出された問題。飲用水ではなくあくまでも製造のため使用する水で、個々の食品に含まれるシアン化合物はきわめて微量となり、製造されたソーセージ1日390袋一生食べつづけても健康上まったく問題ない(シアン化合物の量)というほどの「全国生協連合会」の報告もあるそうだ。自主回収した製品からは、シアン化合物が全然検出されていなかった事実もある。だいたい世界保健機関の飲料水水質ガイドラインの3分の1以下の検出量で、国際的水準では、飲料水としてでも引っかからないレベルということだ。このときもメディアは騒ぎ、「世論」は容赦なく〈悪徳〉企業を叩いたのである。
 食の安全性に関しては、携わる機関に、慎重すぎるほどの配慮と大いなる責任を求めるべきは当然であるにしても、科学的根拠を欠いて、「法の遵守」なる「印籠」が「世論」の後押しでやたらと取り出されるのは困ったことであろう。(09年5/18記)

 幸いインターネットにおいては、科学的根拠のある(evidence-based)議論が展開・発表されていて、門外漢にも事態が呑み込めて安堵することになるのである。とはいえ今回の福島原発事故は、知る限りでは多くのところが「人災」とみられ、東電経営陣の責任は限りなく重いといえよう。
 http://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/jishin1.html 
  http://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/jishin2.html地震についての基本的学習。「初期微動継続時間」の公式とは、なつかしい。)
 http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i3(「放射線医学総合研究所」)
 https://sites.google.com/site/radmonitor311/home (放射線量についてのデータ)
 http://www.econ.hit-u.ac.jp/~makoto/Tohoku_Kanto_earthquake_behavior.pdf (「プロスペクト理論」)
 http://mainichi.jp/life/health/nakagawa/(「Dr.中川のがんから死生をみつめる」) 

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、上:おかめ桜(豆桜=富士桜と寒緋桜との掛け合わせ)、下:花桃。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆