『バーテンダー』というカクテル

 
 昨日は、2週間ぶりに、夜のTV連続ドラマ『バーテンダー~Bartender~』(テレビ朝日)を観た。前に放送していた連続ドラマ『神の雫』(日本テレビ)と同じく、マンガ(どちらも未読)を原作とし、究極のワインorカクテルをめざす青春の物語であるが、こちらのほうが断然面白い。竹中直人がどちらにも出演していて、ワイン道、カクテル道のそれぞれの厳しい師の役柄であるところが共通している。
 

 亀梨和也仲里依紗コンビより、相葉雅紀貫地谷しほりコンビのほうが、演技力が数段上(嵐・相葉クンに不満もあろうが、主人公佐々倉溜は、免疫学的にはリンパ球タイプ。あれでよしとする)である。貫地谷しほりは、令嬢にして雑誌記者ながら時おり「B子」&「キミ犯」を出してサービスしてくれる。 さらに『バーテンダー』の面白さは、津川雅彦御大(美和=しほりんの祖父でホテル王役)を筆頭に、脇役陣およびゲスト俳優・女優が魅力的(あくまでもこちらの嗜好)であることに起因しよう。各エピソードも、少々無理な展開が感じられても、まとまっていて悪くない。登場人物たちの孤独と哀感は伝わってくる。
 昨日のエピソードでは、フランス帰りのシェフが登場、ホテル主催の「フランスフェア」で日本の食材(野菜)は使わないと言う。溜は、彼の考えはフランス中心のゴーリスム(Gaullisme=ド・ゴール主義)だとし、カウンターで「十年もの本仕込みの味醂」を飲ませる。シェフは、「35年熟成のオロロソ(スペインのシェリー酒)」と勘違い。そこで、フランスで日本人として修行しているうちに、ゴーリストになっていたと気づき、日本の食材の使用を考慮することにする。ここは考えさせられた。(溜もやるなア。)
 http://ameblo.jp/cm23671881/entry-10095085183.html (「ル・モンド」記事の紹介)
 食の比較文化論では、かつてわがHPに、榊原英資氏の著書をめぐって書いている。再録しておきたい。
◆「食」は文化の根幹であるとの認識にもとづいて、「食」の文化を経済活動と関連づけながら通時的かつ共時的に考察したのが、榊原英資氏の『食がわかれば世界経済がわかる』(文藝春秋)である。200ページ近いが、各ページの行間がだいぶ開いていてボリューム的には新書程度の本で、すぐに読了。なかなか勉強になった。
 結論のところが通奏低音となって、近代からポストモダンの現代および未来にむかっての「食」の文化の展開と、これからのあるべき方向を展望している。
『古い時代のアジアが一つのモデルになって、ポストモダンの新しい食文化が生まれようとしているわけです。「食」のポストモダンとはすなわち「リ・オリエント(アジア復権)」であり、21世紀型の「食」はアジアにあるのだ、という方向性が今、明らかになりつつあるのです。/このことをもっと、日本人、いやアジア人は自覚すべきなのではないでしょうか。』
 いまやニューヨークでも評価の高いレストランに日本料理の店が少なくなく、フランスでも日本人の料理人のいない三ツ星レストランはないとの話も聞かれるほど、日本料理や日本の食材が世界的に注目されているそうである。著者がたびたび紹介する京都の「吉兆」などで食べたこともない<下流社会>の人間なので、印象としてピンとこないところもあるが、寿司が海外で人気の料理になっていることは知っていた。健康志向という時代の要請にも後押しされて、もっともっと日本料理全般への注目と評価が高まっていることを知らされた。
 香辛料を扱う東西の中継の貿易などで富を蓄えたイタリア諸都市にすぐれた食文化が発達し、1533年カトリーヌ・ド・メディチがアンリ2世と結婚して、その食文化がフランスの宮廷に伝えられたことが、近代ヨーロッパ料理の中核となったフランス料理の始まりである。さらに1600年アンリ4世の許へメディチ家のマリーが嫁ぎいよいよイタリアの食文化が伝わるとともに、スペイン王家からも王妃を迎えたことにより、スペイン王家の料理文化もフランス料理には入っているのだそうだ。なるほどフランス料理がヨーロッパ料理の横綱というわけだ。「アンリ4世自身は、上品さからほど遠く、ニンニクを丸かじりすることが大好きで、その体臭は十歩離れても匂ったと言います」というところには驚いた。ただしいくら王様でも「匂った」ではなくこの場合は、「臭った」だろう。
「食」を文化として捉えるフランスは、「食」を資源として捉えるアメリカの工業化された農業が大量に生産流通させるファストフードの<侵略>に対して、無抵抗ではなかった。日本や中国では、あっさりとその侵入を許してしまった。工業的に飼育された動物の肉を食材とし調理が規格化されていて、動物性油脂・砂糖・塩分の多い、しかも中毒性のある味付けのファストフードは、食文化の洗練および健康の維持の観点から、安易に日常的に食すべきではないだろう。季節の食材を上手に利用する庶民の和食、「医食同源」の伝統のある中華料理、多彩なハーブが体によい東南アジア料理など、これから見直して、アンヌ隊員もしくは日本のラウラ・アントネッリひし美ゆり子さんのお店「ASIAN TAIPEI」(2011年現在こちらには、ご本人は出てない、念のため)などで大いに食べまくるがよろしかろう。レストランも、フランスで一般化したのがフランス革命以降であるのに対して、中国では、その2000年以上も前の漢の時代から存在していたのであって、どちらの食文化が世界の中心になるのかということでは、まさに著者が展望するように、経済の興隆と連動して「リ・オリエント」なのであろう。(2006年3/20記)
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のヒマラヤユキノシタ。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆