開成学園文芸部OB会

 
 開成学園文芸部OB会の文芸誌『暁光以後・7』2010冬号をお送りいただいた。表紙は、スペインの村と日本の南房総の二つを、創作と生活の拠点としている画家の石井崇さんの作品から。瀟洒な印象を与える。
    http://www.oliva2004.net/ (イシイタカシ=石井崇の世界)
 大岡俊明さんの現代詩3題が巻頭を飾る。永く駿台予備校のカリスマ世界史講師であった人だ。

「多種のナショナルな夢にもつきあわされたが/ご用心、ご用心/連帯の語すら知らない少年少女に/しゃべる/多分効き目などないが/老いの繰り言/他にすることも/ないので」「繰り言・2010年」最終聯
 1990年代の作との他の2篇「再見」と「行き悩む」に比べると、老いの達観と苦い笑いが感じられ、読みやすい。
 
 歯科医師としても著書のある飯田五十平さんの小説「遮断」は、母の死と主人公の病気入院を描いて、ずしりと重い読後感の作品。身体存在としての主人公が直面した、記憶の遮断と遮断の感覚の体験を〈科学的〉に考察させている。作中「女の看護師」などとは書かず、「看護婦」と書いているのは、拍手したい。下手にフェミニズムのプレッシャーに負けて、文学のことばを殺してはならない。
 面白かったのは、著名な中世日本文学の学者である松村雄二さんの「三銃士の世界」で、映画雑記その三にあたる。NHK教育テレビ三谷幸喜の連続人形劇『新・三銃士』を、昨年観たばかりというタイミングもあり、愉しく読めた。フランス語表記の、ダルタニャン、ミラディの名前で統一している。リチャード・レスター監督の『三銃士』三部作では、三銃士と敵対するロシュホールを、ドラキュラ役者クリストファー・リーが演じていたそうだ。「大抵の彼のドラキュラ映画を見てきた私にとっては懐かしかった」と書いている。ロシュホール役のことは知らないが、浅草大勝館ではじめて『吸血鬼ドラキュラ』を観て以来、恐怖の対象となったこの役者のドラキュラ映画はだいたい観ているので、大いに共感を覚えた。ミラディを、『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイが演じていたとのこと。以降の作品の一つで、ランダル・ウォレス監督の、レオナルド・ディカプリオ主演『仮面の男』を、「サスペンス溢れる緊迫感とドンデン返しに満ちている」終幕15分をもった作品として紹介している。近々DVDで観たみたい。とりあえず急ぎ読んだ作品についてのみ記しておく。
【追記】http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20130211/1360565350(『暁光以後』2012年冬号) 
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のデイジー(Day's Eye)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆