女優アンナ・カリーナ(Anna Karina)といえば、個人的にはジャン・リュック・ゴダール監督の『女と男のいる舗道』がいちばんの印象。あのナナのイメージが鮮烈。カフェで対面して、ナナにひとりの老哲学者が語りかける場面は秀逸。哲学者が三銃士物語の後日談を話し、「考えること」の危うさと、しかし日常の営みとともに「考えること」のたいせつさを説く。これが伏線となって、娼婦ナナの銃弾に倒れるあっけない死を呼び寄せるのである。同じゴダールの『気狂いピエロ』は、ラストシーンのみ記憶してるが、アンナ・カリーナのこの映画での脳裏に焼きついたイメージはない。ロジェ・バディム監督の『輪舞』も好きな映画だが、ジェーン・フォンダ、フランシーヌ・ベルジェ、カトリーヌ・スパーク、マリー・デュボワと錚々たる女優の共演で、とくに小間使い役のアンナ・カリーナの印象が強かったわけではない。
昔(1997年)新宿小田急美術館で催されたベッティナ・ランス(Bettina Rheims)の世界的女優たちを撮った写真展で、ヌードの被写体となっていたアンナ・カリーナを観て驚き、感動したものである。ご冥福を祈りたい。