夏の蝶

 展翅の作業がめんどうくさそうなので、蝶の採集はしたことがほとんどなく、かつて夏によく滞在した奥秩父の谷津川河畔で、捕えたオオムラサキコムラサキも捕虫網からすぐ解き放ってしまった.ここで出会ったミヤマカラスアゲハが、無数の岩の上を飛び交い、そして悠然と去っていった光景が強く印象に残っている.
「大昆虫博」で購入した、奥本大三郎『散歩の昆虫記』(幻戯社)によれば、公害に強いということで、東京などでも街路樹としてクスノキが植えられ、幼虫がその葉を食べるので、アオスジアゲハが最近増えているのだそうである.著者の奥本邸の庭では、この蝶が吸蜜のため訪問してくれるよう、雑草で薮を枯らしてしまうが、濃い甘い味の蜜をもった、小粒の花を咲かせるヤブガラシをあえて刈り取らないとのこと。ところが近所に住む潔癖症の婦人が、勝手に垣根のヤブガラシを抜いてしまう.「人の家の草を抜かないで下さい」と言っても聞かないそうである.
「そういう私も、若者が金髪を長く伸ばしていたりすると思わず刈ってやりたいような衝動にかられるから、人のことは言えたものではない.」(同書)
 わが家の庭には(ヤブガラシ=ビンボウガラシはすでに抜いてあるが)、ミカンとユズの樹が植えてあることもあり、ナミアゲハ、クロアゲハ、アオスジアゲハ、アカタテハヒメアカタテハなどが頻繁に飛んでくる.あいかわらず眺めるのみで、捕まえることはない.ただ近ごろ関東でも見かけるというナガサキアゲハが飛び込んできたら、ぜひ捕獲したいものだ.

散歩の昆虫記

散歩の昆虫記

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家に飛んできたヒメアカタテハ蝶。小川匡夫氏(全日写連)撮影.⦆