秋の蝶

 http://www.youtube.com/watch?v=_iq43Vs8CEw ⦅Léo Ferré - Chanson d'automne (Verlaine)⦆

 「落葉(秋の歌)」
                     上田敏 『海潮音』より
秋の日の/ヰ゛オロンの /ためいきの/ひたぶるに/身にしみて/うら悲し。

鐘のおとに/胸ふたぎ/色かへて/涙ぐむ/過ぎし日の/おもひでや。

げにわれは/うらぶれて/ここかしこ/さだめなく/とび散らふ/落葉かな。

 再び奥本大三郎氏の『散歩の昆虫記』(幻戯書房)。収録のエッセイ「日本の秋 パリの秋」で、晩秋熟柿にゴマダラチョウが飛んで来たことに触れ、ヴェルレーヌの「秋の歌」を想い、「つくづく美しいと思う」日本の秋とパリの秋について比較している。
……実際にこの詩人の住んでいたパリの秋はこんなにマイルドなものではない。もともとパリは緯度でいうとサハリンくらいのところにあって、冬の寒さは厳しい。夏が終わったかと思うと、あっという間に日は短く、気温は寒くなって、秋はたちまち過ぎてしまう。秋は冬の前触れ、あるいは警告の時でしかない。
 とてもとても、「天高く」などと言ってはいられない。「ひたぶるにうら悲し」といった甘い感傷にひたる余裕はなくて、北風がひゅうひゅうとヴァイオリンのトレモロのように枝を鳴らし、枯葉が舞い散るのである。
 そうして人間関係にしても、個人主義といえば立派なようだけれど、要するにドライなエゴイスト同士のつき合いであるから力がなく、落ちぶれてしまえば哀れな末路が待っていることになる。詩人には鐘の音が、自分の葬式の鐘に聞こえたりもするのである。(同書p.30)※トレモロ:同一の音または異なる二音を、震えるように急速に反復演奏する、装飾音。震音。
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のマーガレットコスモスとモンシロチョウ。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆