子規俳句の血脈

 自民党周辺での離党・新党結成をめぐる動きには、麻布高校の同窓が中心にあるようだ。政界にも多くの俊秀を送り出しているこの学校の実力には、感嘆させられる.わが甥が、麻布(→東大建築科)出身なので親近感と関心をもっている。現在日本の高校で最高の学力水準を保っているのは、「東の筑波大付属駒場と西の灘」の二つの高校であることは、周知の事実であろう.開成は、平均学力的にはその次に位置する学校だろう.
 開成学園の歴史は古く、明治4年開校の共立(きょうりゅう)学校にはじまり、大学予備門(東京大学予科)への進学準備校として秋山真之正岡子規らの子弟を育て、その後尋常中学共立学校→(府立)東京府開成尋常中学校→私立開成中学校を経て現在に至っている.したがって橘木俊詔同志社大学教授が、「開成は明治のころから進学重視の特色があったわけで、戦後にふたたび東大合格者No.1になったことは、先祖返りと言えなくもない」(『灘校』光文社新書)と述べる通りのところがある。

      http://www.tokyo-kurenaidan.com/shiki-tokyo2.htm

 開成の「お勉強」以外の全国レベルの活躍として、「全国高校俳句選手権(松山俳句甲子園)」での実績が光る.毎年地方予選を経て夏、正岡子規縁の愛媛県松山市で全国大会が催されるこの大会における、開成高校俳人たちの作句と批評の才には驚くばかりである.
  第10回大会(2007年)での、団体優勝開成A。優秀賞句「富士山のぽつんとありし終戦日 川島拓」。
  第11回大会(2008年)での、団体優勝開成B。最優秀賞句「それぞれに花火を待つてゐる呼吸 村越 敦」。
  第12回大会(2009年)での、団体3位.日本ユニセス賞句「全山の葉を打つて止む夕立かな 三村一貴」。

    http://www.haikukoushien.com/

 学校の制度上の形態が変わっても、子規のDNAが継承されていたのであろうか.そのたしかな表現の道場がつくられつつあることに注目したい.ただし子規は、学校の試験というものに馴染めなかったようで(『墨汁一滴』6月14日の記)あり、そこはいまの開成生と大いに異なるだろう。また小谷野敦氏のご指摘の通り、「鶴の巣や場所もあらうに穢多の家」(『墨汁一滴』4月25日の記)との明白な部落差別の句があり、この差別意識は否定克服しなければならない.
   http://www.aozora.gr.jp/cards/000305/files/1897_18672.html (『墨汁一滴』青空文庫

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下谷神社境内の子規の句碑。「寄席はねて上野の鐘の夜長哉」と彫られ、隣には「寄席発祥之地」の石碑が建てられている.小川匡夫氏(全日写連)撮影.⦆