歌磨版画の色彩

 永井荷風のような掃苔の趣味があるわけではないが、寺院の墓地や、沖縄の独特の形状の海辺の墓を眺めるのは、興味深いものがある.
 春の彼岸会の法事の日(3月21日)、東京世田谷区烏山の専光寺(写真)に出向いた.父と病死した弟が眠っている.ここは、かの喜多川歌麿(北川歌麻呂)の墓がある寺である.ご住職は今回で引退、ご長男に引き継ぐとのことであった。歌麿の墓には、花が供えられてあった.
 前にNHKスペシャル番組で「歌磨・紫の謎」というのが放送されたことがある.ボストン美術館秘蔵のスポルディングコレクションをデジタル解析して、その木版画作品中、紫色が消えてしまっているものが発見され、その紫色の原料は、青花(露草の一種)と紅(呉藍)との合成らしいとの内容だった.彫師・摺師との共同制作において、絵師歌磨のどこまでの判断が関わっているのか判然とはしないが、復元紹介された紫の色彩には魅せられた.

 アナログのわが家のテレビがとうとう壊れてしまった.近くの「ヤマダ電機」にて、パナソニックの液晶TV「VIERA」37型を購入.ケーブルテレビ加入で、すでにデジタル化完了、さらにWOWOWまで入っているのに受像機だけはアナログという、むしろアナクロ的環境を享受していたわけだ.セッティングしてもらえば、なるほど色彩鮮やか、文字が鮮明に読めるのも嬉しい.とくにHDMIケーブルを使用したところ、NHKhiの画像と音声の質には感動させられた.どんどんライブ中継をしてほしいものだ.ところでしかし、こんな原色の氾濫に、色彩感覚が麻痺しないだろうか.ときおり部屋に山積みされている「歌磨特集」ほか「芸術新潮」のバックナンバーの頁でも捲り、船が港に帰るようになつかしい色に戻りたい.