七夕飾りの国立劇場で再会と別れのドラマ:『双蝶々曲輪日記(引窓)』観劇

 

 7/5(水)国立劇場にて、(本劇場での)最後の歌舞伎鑑賞教室、解説付き『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわのにっき)』全9段中8段目「八幡の里引窓の場」1幕を観劇。9日からは大相撲名古屋場所が始まるが、実在した相撲取り濡紙長五郎をモデルにした関取濡髪長五郎が中心人物の『双蝶々曲輪日記』の8段目「引窓」(通称)1幕を観て来た。
 濡髪長五郎(中村錦之助)、ここでは大坂で二人を殺害した科で追われる身、自分の実の母であるお幸(中村梅花)の元に逃げてくる。最後の別れのつもりであった。八幡の里のこの家には、お幸が先代十次兵衛と再婚して産んだ南与兵衛とその女房お早(市川高麗蔵)と3人が暮らしていた。濡髪長五郎はお幸が再婚する前の子であった。手料理の準備のため長五郎が二階に上がっていなくなったところへ、南与兵衛(中村芝翫)が帰ってくる。侍の身なりで、じつは亡父南方十次兵衛の名を継いで役人に取り立てられたのだ。しかし目出度いはずの南方十次兵衛であったが,その最初のお役目が濡髪長五郎の召し捕りであった。手水鉢の水面に映った影から、長五郎の存在を知った南方十次兵衛は、母お幸の心情を察して、それとなく逃げ道まで伝えて探索と偽って外に出る。その深慮の忝(かたじけな)さに自ら捕縛を実母に申し出る長五郎。夫の手柄を置いて、(実子を思う)姑への義理を果たそうとする女房のお早。4人の思いが交錯して事態は行き詰まるが、南方十次兵衛が引窓を開け、(十五夜前)の月の光を部屋に差し入れると、「私の役目は夜の間だけ」だとし、九つの鐘が鳴って(夜中12時)も「明け六つ(朝の7時)だ」と偽る機転で、長五郎に(外から投げ入れて長五郎の頬の黒子を消した)金包みを手渡して逃すのであった。引窓がもたらす明暗が登場人物の心の明暗を暗示して、詩情溢れる人情劇。中村芝翫のなめらかな動きも抜群で堪能した。
 なお当日は中学校の鑑賞教室と遭遇し、12列目まで生徒さんが〈占拠〉して、おいおいと焦ったが、どの学校も鑑賞態度よく、わが席13列目で(上演台本傍に)不都合なく観劇できたのであった。

半蔵門駅からの国立劇場通りに咲くランタナの低木