通し狂言『 南総里見八犬伝』(国立劇場)観劇

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 1/19(水)国立劇場・大劇場にて、曲亭馬琴原作、渥美清太郎脚色、尾上菊五郎監修の通し狂言南総里見八犬伝』5幕7場を観劇。菊五郎劇団の当り狂言で、1969(昭和44)年以降国立劇場公演は今回で5回目とのこと。恥ずかしながら原作は未読、渥美脚本による歌舞伎公演観劇も初めてであった。犬塚信乃成孝を演じているのが、いまNHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の劇中時代劇の剣客モモケン役で注目の尾上菊之助。あっさり名刀村雨丸をすり替えられて、おいおいしっかりしろよ、とTVの人物と重ねてしまった。信乃と相思相愛の女浜路(中村梅枝)に横恋慕して刀をすり替えた左母二郎(尾上松緑)は、浜路を騙して連れ出し(じつは浜路の実兄)犬山道節忠与(尾上菊五郎)に殺されるも、今度は尾上松緑は犬飼現八信道役で登場、2幕目滸我(こが)足利成氏(坂東楽善)館の芳流閣大屋根で闘うというややこしさ。そしてこの二人は、非業の死を遂げた伏姫が死によって放った八つの水晶の珠のうちの一つずつを所有していて、悪の巨魁・扇谷(おうぎがやつ)定正(市川左團次)を討伐する同志であることが判明する。序幕本郷円塚山の場ですでに闇の中の定正の刺客と闘うダンマリにおいて、8人は一堂に会しているのだが、まだ義兄弟の契りを結んではいない。このダンマリと芳流閣の(捕り手たちと信乃との)大立ち廻りは魅力的だった。歌舞伎の醍醐味ここにあり、ということ。
 2幕目芳流閣の後に、杵屋巳津也(大薩摩)と杵屋巳太郎(三味線)の大薩摩連中が入って、これは聴かせる。
 序幕の大塚村蟇六内の場で、蟇六夫婦(片岡亀蔵市村萬次郎)は、娘浜路を信乃不在の隙に持参金500両と引き換えに代官簸上(ひかみ)宮六(市川團蔵)に嫁がせようと企み、すでに婚姻の場を設えている。宮六が軍木(ぬるで)五倍二(市村橘太郎)を連れてやって来ると、浜路は左母二郎に連れ出されて行方不明。差し出された名刀村雨丸も偽刀と知り怒り心頭の宮六に対して、「諸事ぬかりのないのがこの軍木五倍二。コレご覧じませ」と言ってドローンの小道具を取り出した。「これにて、浜路の行方を探索いたしまする。はい、ドロ、ドロ、ドローン」。「富士の山に初日の出」と五倍二。「令和4年の初芝居、半蔵門も春めいて」と宮六。「国立劇場55周年」と五倍二。「おめでとうございます」と両名。そのあとドローンならぬ黒子たちによる文字や図形の表現。ここが「チャリ場」、愉しかった。
 妖艶で華やかだったのが、4幕目馬加大記(まくわりだいき)館対牛楼(たいぎゅうろう)の場で、馬加大記常武(河原崎権十郎)が自分に靡かない犬田小文吾悌順(坂東彦三郎)を館で磔にし、招いた旦開野(あさけの)という女田楽師(中村時蔵)に唐伝来の剣の舞を披露させ、そしてその剣で小文吾の体を斬り苛むよう命じた場面。この旦開野の中国風の衣装とやや京劇風のメイクが面白く、艶やか。旦開野の正体はじつは犬坂毛野胤智で、小文吾の縄目を切り父の仇馬加大記常武を討ち果たす。大記は足利成氏を裏切って扇谷定正に付いていたので、やはり水晶の珠を所有し8人に加わるのである。
 筋書掲載、水落潔氏の「『南総里見八犬伝』の舞台」の結びの文に当日のわが感想のすべてが指摘されている。 

 このように「八犬伝」は様々な台本で演出され上演を重ねてきた。原作の物語の奇抜さと面白さ、規模の大きさ、善悪の対立の鮮明さが、歌舞伎に向いていたのである。舞台面が華やかで絵画美に富み、道節や毛野で大幹部の風格を、現八や信乃で花形の華と勢いをと、各世代の役者の魅力を魅せる場面が揃っている。初心者から長年のファンまで楽しめる大衆性があり、新春を飾るに相応しい狂言である。(p.23)