ポール・ヴァーホーベン監督の『ベネデッタ(BENEDETTA)』墨田区菊川にて鑑賞

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   5/11(金)の午後、東京墨田区菊川にあるミニシアターStrangerにて、ポール・ヴァーホーベン(PAUL VERHOVEN)監督の『ベネデッタ(BENEDETTA)』を観てきた。前に観た同監督の『BLACK BOOK』がとても面白かったので、大いなる期待をもってこのミニシアターの『ベネデッタ』最終上映を観に出向いたのであった。期待に違わず、9歳のベネデッタが富裕な両親とお供らに連れられて1599年イタリア・ペシアのテアティノ修道院に赴く途中、野盗らに襲われて聖母マリアの〈力〉によって、少女ベネデッタがこれを追い払うオープニングのエピソードからグイグイ引き込まれ、ダフネ・バタキアとのレズビアンラブに溺れた肉欲の罪で罰せられることも承知で、修道院長の職を解かれたベネデッタが離れた野営の地から戻っていくラストのシーンまで、ヴァーホーベンの映像の虜となってしまった。

 シスター(後に修道院長)ベネデッタを演じたヴィルジニー・エフィラは、顔が日本の多部未華子に似ていて、ベルギー出身でテレビ司会者から女優に転じた経歴とのこと。有名な映画賞で主演女優賞、助演女優賞を受賞(1回)ないしはノミネート(数回)されているとのこと、実力・実績のある女優。その上脱ぎっぷりも半端ではなく、ベネデッタを世話し、激しいレズビアンな関係に導くダフネ・パタキアを演じた、着痩せするタイプのバルトロメア・クリヴェッリとともに、これでもかと惜しげもなく美しいヘアヌードを晒している。解職されるまで修道院長だったシスター・フェリシタを演じたのが、何と大女優シャーロット・ランプリングだから驚き。修道院に入るにあたってベネデッタの父との交渉で、いささかも動ぜず高額の入門料を要求するところは、迫力があった。この物語は、表面の展開は史実に基づいていて、当時修道院に入るにも、相当な資産がないとダメだったようだ。まるで現代日本の「お受験」だ。中世に現代があるのか、現代に中世があるのかわからないのである。
 なお映画で女性が修道院に逃げ込む物語の設定であれば、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の遺作でヴィム・ヴェンダース監督が追加補填したオムニバス映画『愛のめぐり合い』の第4話で、街で出会った若い男女の恋、男が告白すると厭世的な女(イレーヌ・ジャコブ)は「じつは明日修道院に入るの」と告げて別れる切ない物語、そしてバルザック原作のジャック・リヴェット監督『ランジェ公爵夫人』では、待ち合わせの時間に相手の男アルマン・ド・モンリヴォー将軍(ギヨーム・ドバルデュー)が(じつは恋のテクニックで待たしていて)来ないので、絶望したランジェ公爵夫人ジャンヌ・バリバール)が修道院に入ってしまう哀切の極みの物語などが思い浮かぶ。この映画においては、少女ベネデッタが修道院に入ることは希望の第一歩なのであった。
 修道院長ベネデッタの肉欲の罪が、フィレンツェから来た教皇大使ジリオーリ(ランベール・ウィルソン)の審問によって暴かれるが、その時レズビアンラブの相手ダフネ・パタキアは全裸にされて台に縛り付けられ、「苦悩の梨」という拷問具を膣内に突っ込まれ、ついに白状してしまい、パタキアは修道院外に追放され、ベネデッタは火刑に処せられることになる。

(「苦悩の梨」上映パンフレットから拝借)
 しかし民衆は、ベネデッタの聖痕の神秘体験を信じ、ベネデッタを救い、暴動を起こしむしろ(ペストの災厄をもたらしている)悪の根源として教皇大使ジリオーリを襲い殺害してしまう。フィレンツェにベネデッタを審問するよう直訴に行った元修道院長シスター・フェリシタは、そこでペストに罹患していて、信仰と絶望の心の葛藤を抱いたまま、ベネデッタが処刑されるはずだった火の中に飛び込んで行くのであった。ヴァーホーベン監督の残酷の美学が炸裂、感動した場面。信仰と絶望、事実と虚構、救いの組織か権力の堕落か、エロス的法悦と宗教的歓び、聖性と世俗性、これら対立するものが渾然としていて、不思議な魅力を放っている。
 史実のベネデッタは、1626年に修道院内で投獄され、ミサの時間だけ食堂の床でパンと水だけの食事が許される日々を送りながら、35年間獄中で生存し、1661年8月に71歳で亡くなったということである。ペストに見舞われなかったペシアの多くの民衆が、ベネデッタの遺体を見るために修道院に押し寄せたとのこと。
 上映パンフレット記載の主演女優ヴィルジニー・エフィラへのインタビューで、この映画はフェミニスト映画か、との問いに、彼女は「フェミニズムの定義は難しいが」とした上で肯定して、ベネデッタと教皇大使との直接対決について次のように応じている。

ヴィルジニー・エフィラ:そう、彼女が彼の足を洗う時、教皇大使は軽蔑する口調で「売春婦のようだ」と言う一方、「売春婦にとても詳しいようだ」とベネデッタは切り返す。皮肉がしたたるあの会話は素晴らしいです。ポールは作品において絶えずどんな確実性も打ち砕いています。すべては彼にとって謎。彼はそうした倫理的な不確実性を主流のエンターテインメントに鮮やかに滑り込ませます。私は『ベネデッタ』のような映画で演じたいと夢見てきました。

 ポール・ヴァーホーベン監督の作品では、『BLACK BOOK』のほかに『氷の微笑』は観ているが、作品の内容についてあまり記憶していない。

 Stranger併設のCafeで、上映までの短い時間、掻き込むようにいただいた生クリーム付きの洋菓子、意外と美味しかったことも記しておこう。

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