幻想系の須永朝彦翁逝く

 

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  郡司正勝門下では、アカデミズムの世界では、鶴屋南北研究の古井戸秀夫東京大学名誉教授が、非アカデミズムの世界では須永朝彦氏が世の知るところであろう。
 こちらは須永朝彦の熱心な読者ではなく、所蔵の本も吸血鬼小説集『就眠儀式』(名著刊行會新装版)の著者直筆署名入りが1冊あるのみである。

 個人的にその名とともに記憶されているのは、1983(昭和58)年2月松竹製作、日生劇場公演の、エウリピデス作、須永朝彦訳・台本、栗山昌良演出、坂東玉三郎主演の『メディア』の舞台である。

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『メディア』公演プログラムに、須永朝彦氏が「伝説・戯曲・台本」と題して寄稿している。

戯曲 
メディアの物語を浄瑠璃及び歌舞伎の狂言に準(なぞら)えれば、《アルゴー遠征譚》が世界であり、《金羊毛皮》は差詰(さしづめ)お家の重宝というところであろう。そして、エウリピデスの悲劇『メディア』は、浄瑠璃の段物の最後の部分だけを扱ったようなものである。元来、ギリシャ悲劇は、神話に取材した長い物語の最後の場面を上演するものであり、観客は先行する複雑な筋をほぼ知っていたのである。
台本
 このたびの『メディア』上演は、玉三郎さんの提案に成る。二十代の頃からギリシャ悲劇を、それも『メディア』を手がけたいと念じ、演ずるに適(ふさ)わしい年齢と時機を待っておられた由である。従って、飽くまでもギリシャ悲劇として上演したいという御希望で、それは演出の栗山先生も同様のお考えのごとく拝察された。上演台本の作成を引受けるに当って、ギリシャ文学の専門家ではない私は、何事もお二人のご意向に沿って仕事を進めようと腹を括った。御注文は、四つ、まずこの悲劇を裏切られた女の愛のドラマと捉える事、次に「生硬な飜訳調を避けて」「格調高く」ということ、さらに唱舞隊(コロス)を文字通り歌わせること、そして二幕に仕立てる事であった。第二の台詞の文体についての御注文は考えようによっては至難の技である。 

 

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