マルクス疎外論の再評価

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 田上孝一立正大学人文科学研究所研究員の『マルクス哲学入門』(社会評論社 2018年3月)が届いた。かつてのマルクス研究においては、初期著作『経済学・哲学草稿』で展開されている疎外論は、やがて経済学批判の理論構築の過程で超克されるという理解であったかと認識していたが、どうやら最新のマルクス研究では、疎外論は、マルクス哲学の不変の根幹であり、決してそこを超えていったわけではないということらしい。確かめるべく、いま精力的に著作活動をしている田上孝一氏の『マルクス哲学入門』を手にした次第。さっそく序章を読めば、「疎外論は、マルクスの思想的核心である」と言い切っている。本論である『資本論』では直接疎外に言及していないが、疎外論は「トーンダウンして」いて隠れていても、「マルクスの本音はむしろ草稿の方にある」。

 こうしてマルクスという思想家には、彼自身によって公刊された著書のみの検討では不十分であり、公刊された著書の前提として蓄積された大量の草稿群も併せて研究しないとその真意がつかめないという独特な特徴がある。マルクスの理解には『経済学・哲学草稿』や『ドイツ・イデオロギー』が必須であるが、これらは二つともマルクス自身によっては完成されることのなかった草稿なのである。(p.12) 

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