シニアの幸福度調査

 カルチャースタディーズ研究所の三浦展(あつし)氏の『下流老人と幸福老人』(光文社新書)は、三菱総合研究所主体の2015年6月実施の「シニア調査」と、三菱総合研究所およびカルチャースタディー研究所主体の2015年11月実施の「シニア追加調査」の結果を整理し、シニアにおける年収・保有資産による分布と幸福度との相関などを分析している(シニアとは、65歳以上の高齢者を指している)。とくに驚くような結果が紹介されているわけでもない。例えば、「生老病死」の不安に格差はないが、生活資金をめぐる不安には格差があるということは、とくに調査をせずともわかることである。ただ対処すべき主体が何であれ、取り組む上で問題の切実さを確証できることはたいせつであろう。
……しかし、金融資産の不足については、資産200万円未満の人では66%が不安だが、1000万円〜2000万円未満では38%、3000万円〜5000万円未満になると18%、5000万以上では9%しかない。
 また、過去1年間のあなたの入院費、治療費、薬代、リハビリ費の合計をたずねたところ、金融資産の差による違いはなかった。つまり、資産があってもなくても、かかる医療費は同じだということである。こうしたことが、資産の少ないシニアが、生活資金の不足でますます不安になる要因である。病気になったら収入のほとんどが医療関係にとられてしまうからである。
 だからこそ、先に述べたように年収をせめて50万円でも100万円でも増やしたいというシニアが多いのであろう。……(p.53)
 さて年収と幸福度との相関についてはどうか?
……個人の年収と幸福度の相関を見ると、基本的に年収が高くなるほど幸福度が上がる。ただし600万円を超えると幸福度は伸び悩む。「とても幸せ」に限れば、1200万円以上で15%と増えるが、「幸せである」と合計すると78%であり、800万円〜1200万円未満のシニアの82%よりも少ない。600万円以上収入があることは、幸福度にとってはあまり意味のないお金であり、1200万円以上あってもますます意味がないらしい。
    (略)
 また、年収と幸福度が比例するとはいえ、年収が低いシニアでも幸福である人は過半数いる。200万円〜300万円未満のシニアでもほぼ3分の2は幸せである。そしてこの年収階層のシニアが実数では最も多い。最も人口が多い年収階層のシニアの3分の2が幸せであると感じる社会は、今のところは、そんなに悪い社会ではないと言えるのだろう。……(p.94)
  幸福老人を増やすための施策として、シェア社会の創設を提案している。その場合、単にシェアハウスに住むだけではなく、地域全体、社会全体を、世代を超えてシェアする多機能・参加型のシェア社会を考えている。全国のさまざまな具体例を紹介していて、その試みに感心させられる。
 巻末の著者とレオス・キャピタルワークス社長藤野英人氏との対談は、とくに男性シニアへの励ましとして傾聴に値する。
三浦:今、風潮として、男も地域に戻そうみたいな論調が多いじゃないですか。でも、そんなことよりも、地域や会社を超えた知的なネットワークが広がっていったほうがいいんでしょうね。
藤野:そうです。今、SNS上でいろいろなネットワークのつながりが出てきているし、これが10年、20年たってくるともっと密になってくるはずですので。
                            ……(p.204)