リーダーの条件と学校


 濱中淳子大学入試センター准教授の『「超」進学校 開成・灘の卒業生』(ちくま新書)は、数理社会学的手法で、開成・灘の卒業生の職業生活に中高時代に受けた教育がどう影響しているか(インプリケーション・implication)を追求している。1973年3月〜2000年3月開成・灘卒業の各500名ほどの調査回答数を得たデータを、テーマごとに整理し分析したものである。必要な場合、同時期首都圏の高校を卒業し、大卒で正規として働く男子の回答数1100名ほどとも比較対照している。年収・役職・専門職をめぐる分析は、新鮮な知見を与えられることもあるが、大方の予想通りの結果ともいえ、感動するところは少ない。
 第二章のリーダーについての考察が面白い。リーダー行動の測定尺度に関しては、二つの「簡易な質問項目」を用意して、調査に臨んでいる。
○課題関連行動:「他の人には描けないような、大きなビジョンやプランを描きたいと思う」(傾向有/無)
○人間関連行動:「喜んで自分についてきてくれる人がいる」(傾向有/無)
 この二つの質問項目両方に「傾向有」と回答したものが、開成・灘卒業生の4割存在したとのこと。なおこの比率は、進学先の大学と大きく関連しているわけではない点に希望がもてるのである。課題関連行動については、限定的に大学進学以降の経験がその傾向を強めるが、人間関連行動に関しては、「中高時代の経験も関わっている」。「人間関係の壁」にぶつかったときどう対処したかを質問し、その対処の仕方と中高時代の経験との関連を分析している。
……部活動と人間関係の壁への対応とのあいだに関連性がほとんどみられない一方で、学校行事・課外活動への取り組み方と壁への対応とのあいだには、明確な関係をみることができる。
 すなわち、学校行事・課外活動に非積極的だった者は、壁にぶつかっても未解決のままが多く、積極的に取り組んだものの、リーダー経験までは有していない者は別のところに活路を見出す傾向がある。他方でリーダー的役割を担った者は、五割が壁そのものを乗り越えたと回答しており、その比率は群を抜いている。学校行事・課外活動のリーダーを経験することは、人間関係のトラブルに真正面から向き合おうとする、向き合えると考えるようになるということなのかもしれない。そしてこのような姿勢で周りに接しているがゆえに、フォロワーがついてくるというストーリーを描くことも可能ではないだろうか。……(pp92~93)
 イラストコミュニケーションサービスのpixiv株式会社副社長のN氏と、同社の開発統括担当で、かつロボッティクスベンチャーユカイ工学株式会社CEOのA氏は、ともに開成高校の卒業生である。リーダーシップを発揮する、新しい分野も誕生しつつあるらしい。イラストは楽しいので、こちらも閲覧のみのpixiv会員登録をしている。
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