【リスクについて】
一ノ瀬正樹東京大学教授の論稿『「いのちは大切」、そして「いのちは切なし」—放射能問題に潜む欺瞞をめぐる哲学的再考—』(東京大学哲学研究室『論集』33号)は、勉強になる。一般論としての、リスクについてのおそらく自明のことであろう考察により、門外漢としてあらためて認識を正しくもつことができた。
リスクの「標準的定義」とされているのは、「害の期待値(the expected value of harm)」のことで、
リスク(risk)=「有害事象の生起確率×有害性の度合い」(probability×harm)
という式で示される。
そこから、一般に「危険性」と訳されるが、リスクは必ずしも「危険性」と同一ではない。さらに、リスクは、「確率や有害性の度合いという量的尺度を本質的に含む概念」であることから、リスクはその有無ではなく、量的に語られるべきものである、ということである。「いのちは切なし」との無常観を基底にしながらも、「全力でリスクの相対的な比較を、可能な限り(※社会全体として)追求し、悔いのない意思決定をしていかなければならない」との、一ノ瀬正樹教授の提言には大いに共感する。
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/philosophy/pdf/Ichinose2015b.pdf(『一ノ瀬正樹:「いのちは大切」、そして「いのちは切なし」』)
【事実について】
http://gohoo.org/15062501/(『イラク派遣自衛官の自殺率「自衛隊全体の5〜10倍」は誤り:東京新聞が訂正』)
すでに「東京新聞」6/25朝刊で「おわびと訂正」を載せているので、決着している。同紙にそのイデオロギー的立場はともかく、今後の慎重さを求めたい。
朝日新聞の「プロメテウスの罠」チョウを追うシリーズは、研究内容に極めて多くの批判が寄せられ、かつ研究者としての資質が問われている研究者たちの行動を延々と描いているわけですが、いったい何のために連載しているのか全く分かりません。「罠」批判をしてきた人たちへの開き直り的反撃か。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2015, 7月 20
朝日新聞(プロメテウスの罠)チョウを追う:9 http://t.co/CSfeMHZboj「原発に近い所で捕まえたチョウの羽は、遠い所のチョウに比べると小さかった」→研究者が言っているだけのことを、事実であるかのように書くのは良くない。「罠」が記事ではなく、物語なら許されるが。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2015, 7月 20
朝日新聞「プロメテウスの罠」。多くの批判を浴びた研究を「支える人たち」の物語を延々と書いていますが、よくこんな企画がデスク、編集局を通ったなと、驚きを禁じえません。ネットでの記事批判は多数あり、読者からの評判もよくないと推測しますが、そうした声は編集局に届かないのでしょうか。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2015, 7月 22
この問題については、すでにクマムシ研究の生物学者堀川大樹氏の論評があり、ほぼ〈決着〉がついていることだろう。