追悼・鶴見俊輔



 じつは、鶴見俊輔氏の著作は2冊しか所蔵していない。熱心に読んだのは、『アメリカ哲学』(講談社学術文庫)で、これを参考書として、中公世界の名著の『パース・ジェイムズ・デューイ (プラグマティズムの思想家)』を読んだものである。この本があいにく見つからず、『限界芸術論』(勁草書房)を取り出しあらためてページを捲ってみた。「視聴者参加番組について」のエッセイが面白い。大学入試問題が知識の暗記を問うばかりでなさけない、論文を書かせる出題方式にせよ、という問いかけに始まり、オルテガが『大衆の蜂起』によって、「十九世紀までのヨーロッパ的教養人はもはや育ちにくくなったという事情を説明している」と紹介している。日本庶民の住宅入手の絶望的困難さに触れたりしながら、テレビ・ラジオ放送の視聴者参加番組に注目し、新たな可能性に期待している。
……これはラジオの番組だが、サトウ・ハチローが司会する「歌は結ぶ」というのがある。司会者は投書して来た人々と会って、ある歌についての個人的な思い出をきいている。その人だけの生きて来た一回かぎりの人生の中で、ある歌がどんなかけがいのない個性的な意味を獲得したかを話してもらっていた。
 このような大衆参加番組は、大衆を画一化された一つのかたまりとしてとらえるのではなく、大衆ひとりひとりのもつ顔と個性とをとらえる道をきりひらいた。こういう道すじが、さらにひらかれてゆく時、十九世紀までのヨーロッパの教養人の文化とははっきりちがった新しい文化時代の大衆文化がつくられてゆく。……(pp.309~310)
 http://blog.goo.ne.jp/kmomoji1010/e/0bdbbe51c129d911f323a1c5339d5f0b
(「プラグマティズム草創期とパースの不遇 ― 鶴見俊輔アメリカ哲学』を読みながら」)

アメリカ哲学 (講談社学術文庫)

アメリカ哲学 (講談社学術文庫)