ルカーチを読んだ

(わが書庫の白水社版『ルカーチ著作集・全13巻&別巻1』) 

 本日は、ハンガリーの思想家ジェルジ・ルカーチの命日(1971年6/4没)である。現代思想領域の本としてははじめて読んだルカーチの『歴史と階級意識』(未来社)は、社会と歴史を考える上で原点ともなった。懐かしくページを捲ると、「労働の物象化が拡大するためには、社会全体の欲望充足がどうしても商品という形態でおこなわれねばならない」のところに赤色の傍線が引かれてある。なるほど重要な指摘である、的を射ている。ルカーチ研究の石塚省二氏も『ポスト現代思想の解読』(白順社)で、『歴史と階級意識』の物象化論の思想史的意義を論じている。
 http://chikyuza.net/archives/18710⦅「書評:西角純志著『移動する理論―ルカーチの思想』(御茶の水書房)」⦆

 そもそもはルカーチの名を知ったのは、高校生のとき国語のN先生(現東京大学名誉教授)に読ませていただいた、ジェルジュ・ルカーチとアンナ・ゼーガースとの1938年〜1939年のリアリズムをめぐる文学論争についての論考を通してのことであった。それから何年か経って、この論争について直接読みたくなったが、往復書簡を収録した『リアリズム論』(理論社)はすでに絶版。あるとき書評紙の「探し物」欄に出したこちらの記事を、詩人の武田文章さんが眼に留めて連絡をしてきたのであった。たしか高田馬場駅近くの喫茶店で待ち合わせ、同じルカーチの『リアリズム藝術の基礎』(未来社)と併せ頂戴した。借りるつもりであったが、「いい、差し上げるよ」とのことだった。不覚にもこの人が、かの武田麟太郎の長男だと知ったのは後のことであった。