BSプレミアム『珈琲屋の人々』

 春のテレビドラマでは、NHKBSプレミアム放送中の『珈琲屋の人々』が面白い。この春のテレビは刑事ドラマが多いようだが、『CSI・NY』などWOWOW放送のアメリカの刑事ドラマに比べて、これまでの印象から登場人物に奥行きがなさそうでどれも観ていない。『珈琲屋の人々』は、親父の後を継いで珈琲屋になった主人公宗田行介(高橋克典)に関わってくる人物群像と事件を、出会いの空間であるこの喫茶店を中心の場として描いている。一話完結で展開しつつ、行介と、彼に殺された暴力的なヤミ金業者の男の妻だった柏木冬子(木村多江)との〈許されない〉恋の成り行きを主軸としたそれぞれの関係が、各回のエピソードを通して進展していく。「珈琲の温かさ」が心折れそうなひとの励ましとなるというコンセプトが、通奏低音としてある。正義のお説教が聞かされないのも好感がもてる。
 4/27(日)の回では、出所して失恋した同郷の青年をヤミ金業者の拉致・脅迫から救うため、キャバクラ勤めの女南野千果(倉科カナ)が、まず警察に知らせると言い、まったくたじろがない相手に「私には、そのスジのお客さんもたくさんいるんだ。私が本気出したら怖いんだよ!」と啖呵を切った。これでヤミ金業者は退散。倉科カナさんも巧くなったものだ、感心した。このあたりが社会と人生の現実から眼を背けず、説得力がある。
 自分の夫を殺害した男宗田行介に次第に魅かれていく、美貌の女性冬子を演じる木村多江は、葛藤に悩み妖艶さを押し殺した表情と振る舞いが魅力的である。居酒屋の女将木綿子を演じているのが、なんとかの壇蜜。独特の声が、哀しみを漂わせて生きている。その他俳優陣がみな達者で、現今のドラマとしては佳作である。
 http://www.nhk.or.jp/drama/coffee-ya/index.html(『珈琲屋の人々』)
 直筆サイン入り木村多江写真集・小池伸一郎撮影『余白、その色』(ワニブックス)を、居間の書棚から引っ張り出ししばらく眺めて愉しんだ。


               (『余白、その色』小池伸一郎撮影)