女優江波杏子追悼

 http://www.sankei.com/life/news/181102/lif1811020022-n1.html
(『女優の江波杏子さん死去 「女賭博師」シリーズ』)
 俳優の江波杏子さん死去 映画「女の賭場」で人気博す:朝日新聞デジタル


 出演の舞台は、一度だけ観ている。1994年9月兵庫舞台芸術第八回公演の、山崎正和脚色・監修、宮島春彦演出の『オイディプス王』での王妃イオカステの役。場所は、東京渋谷Bunkamuraシアターコクーン。インタビューに答えて、監修の山崎正和氏は、『オイディプス王』は、(現代の演劇として捉えるならば)近代的な人間=文明と自然・環境との相克・葛藤を象徴的に描いているとしながら、しかし「サスペンス劇として、皆さんににハラハラしていただけるような演出を考えています」と。

 近代的な人間と自然的な人間の葛藤は、別の言い方をすれば、父性原理と母性原理の葛藤と言ってもいい(実際の男女には、この両方が含まれています)。
 強い意志と力、腕力は父性原理です。それを包みながら、保護しながら生命をまた次に繋いでいくのは、母性原理です。自然の一部としての人間、つまり母性原理は、オイディプスの父性原理以上に生命力を持っている。死ねばまた次の子供を産んで、その子供が死んでまた次の子供を産むといったように、生物が生きるようにして生きている。お芝居の中にも、こういったドロドロしとた意志のぶつかり合いといったものを描いていきます。
 キャスティングにおいては、この対比を考えました。江波さんの女性としての豊かさ、それに対する夏八木さんの男性的な力強さ、両性具有の神秘的な人間を演じる榛名由梨さん…。役者さんたちの個性にも、大いに期待しています。

 「古典に対してバロック的な作品」に仕上げたとの舞台では、終幕、江波杏子のイオカステは何と全裸で、あたかも宗教裁判で魔女とされ処刑された中世末期の女性のように処刑(?)されるのであった。「江波さんの女性としての豊かさ」は衝撃的なかたちで現前した。
 テレビドラマでは、NHK朝ドラ『ちりとてちん』ヒロイン(貫地谷しほり)の祖母役、NHK連続ドラマ『ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語〜』のバーバラ夫人役がハジけていて印象的であった。ご冥福を祈りたい。