貧乏について

(表紙:高橋甲子男)
 文藝誌『雲』(龍書房)2012.7月号に掲載の小説、鴻農映二の「憲法第25条」が、『三田文学』2013.冬季号の「新同人雑誌評」で高い評価(伊藤氏貴氏)を受けているとのことで、不覚にも慌てて読んでみた。たしかに面白く、佳品である。
 冒頭で、こうあるとして「日本国憲法第25条」の条文を掲げ、「吉岡保は、この法律に基づいて、東京近郊の、巨大テーマパークのある市の生活保護施設に入ることになった」という文で始まっている。例のごとく政府や〈新自由主義〉に対する怨嗟と酷評が展開されるのかと危惧しつつ読めば、予想は裏切られる。外国でフリーライターの仕事してきた主人公吉岡が、仕事が無くなって日本に帰り、生活保護を受けるに至る。施設に入居する前に、東京の出版社と四国松山の叔父からなんとか手に入れたお金で「青春18切符」を購入、人生最後のカーニバルとなる旅に出ていた、という話の運び。「人生の脱落者、決定的な敗北者という意識が離れない」主人公の自画像を描いているのである。旅先での土産物屋の女との出会いとトキメキ、施設での〈どん底〉の人間群像が淡々と描写されていて、退屈はさせない。全体としては散漫な印象を残すが、現代の貧乏について考えさせられる。
  http://agora-web.jp/archives/1514528.html(「失業と貧困は、なぜ生み出されるのか?」)
  http://agora-web.jp/archives/1514271.html(「成長エンジンを再構築しないと日本はもたない」)
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の 、八重の山茶花。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆