左翼〈尊王攘夷派〉の擡頭


 アゴラ研究所社長で学術博士の池田信夫氏の近著『丸山眞男と戦後日本の国体』(白水社)では、まず「国体」の語をめぐって議論の足場を固めている。

 明治憲法は日本の「国体」を求めるものだといわれたが、その意味ははっきりしない。それが「万世一系天皇による支配」という含意をもったため、戦後は使われなくなったが、日本国憲法も別の意味で国体と呼ぶことができる。Constitution(憲法)の本来の意味は、司馬遼太郎のいう「国のかたち」であり、国体という訳語がふさわしい。その本質は法律の条文ではなく、それを取り巻く制度と解釈の体系にある。(p.52 )

 1958年結成された憲法問題研究会は、その焦点は「第九条ではなく、第一条の国民主権だった」。いっぽう同年憲法改正のために政府が発足させた憲法調査会も、結局憲法の三原則ー国民主権・人権・平和を守るという方針を打ち出した。

 結果的には、この一九五八年が戦後政治の分水嶺だった。当時は自民党憲法改正を党是として掲げていたが、改正は不可能になった。その代わり保安隊は自衛隊になり、安保条約は改正されて、高度成長の中で憲法問題は風化した。その結果、表では平和憲法によって諸国民の公正と信義に信頼して国を守るが、裏では日米同盟という超越的な権力の支配する戦後日本の国体ができた。(p.85 )

 この最後のところの「表の国体・裏の国体」の認識は、篠田英朗東京外国語大学教授の『ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)の見解と重なる。ところが現代の思想潮流として、この認識を共有しながらも、戦後燻り続けていたルサンチマンに訴えて、いわば〈尊王攘夷〉を志す主張が擡頭しているらしい。滑稽といえば滑稽である。
 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20170717/1500294313(「篠田英朗『ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)を読む:2017年7/17 」)
『週間読書人』8/10号の綿野恵太氏の「論潮」は、白井聡氏の『国体論』(未読)と対米従属論の流行について論じている。……白井聡『国体論』(集英社新書4月)が売れているそうだ。対米従属論はもちろん昔からあったが、近年の「左」への浸透ぶりは目にあまるものがある……との書き出しに惹かれて、ふだんはベストセラー本などほとんど興味はないのだが、思わず全文を読んでしまった。この著者に関しては、左翼系の東京新聞が祀り上げた記事を書いていたので、その議論の大筋はわかっているつもりである。綿野氏は「当時一読して、加藤典洋敗戦後論』の焼き直しですらない、といった感想しか持たなかったが、驚いたことに多くの読者から新しい議論として支持され」、とくに反〈アベ〉寄りの読者から支持されたとしている。

……市民社会ヘゲモニーを獲得した(かにみえた)米軍基地問題原発問題において敗北を喫したこと、その敗北の理由をアメリカに求めたことが、戦後民主主義はまやかしだとする対米従属論に「左」を向かわせたわけだ。対米従属論の流行と市民社会への絶望は表裏一体なのだ。

 野党共闘のような「市民社会の陣地戦(アントニオ・グラムシ)」でたとえ一時的に勝利しても、「軍隊や原子力にかかわる政策が複数の国家の協力や対立のなかで決定される以上、一国の市民社会ヘゲモニーを獲得しただけでは大きな転換はできない」。
 【ビジネス解読】韓国、酷暑で崩れた「脱原発」政策 無節操な文在寅大統領に国民も首かしげ…(1/4ページ) - 産経ニュース
 韓国の教訓を福島に伝える――韓国における甲状腺がんの過剰診断と福島の甲状腺検査 / Ahn hyeongsik教授・Lee Yongsik教授インタビュー / 服部美咲 | SYNODOS -シノドス-
 


 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20160330/1459322932 ⦅「小谷野敦『なんとなく、リベラル』(飛鳥新社)を読む:2016年3/30」⦆
 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20160422/1461317835 ⦅「浅羽通明『「反戦脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』(ちくま新書)を読む:2016年4/22 」⦆