立川談志追悼公演『談志のおもちゃ箱』



 芒種のころ梅雨近しを想わせる昨日6/6(水)は、東京新宿シアターモリエールにて、「下町ダニーローズ」公演『談志のおもちゃ箱』を視聴かつ観劇した。はじめは高座での落語、立川志らくの「黄金餅(こがねもち)」前半があり、そして、死の直前貯めたお金を餅に包んですべて飲み込んだ乞食坊主西念の亡骸を、その金がほしい金兵衛が寺でお経を上げてもらってから、焼き場に抱えていく後半の件を、スクリーンに映された談志が演じているという展開。この世の志らくとあの世の談志師匠のコラボレーション(吉田正樹プロデューサー)との趣向である。「黄金餅」は、志らくによれば、貧乏寺の坊主のお経に「きんぎょー、きんぎょー」の呼び声が混ざるなどナンセンスを含めた、「陰気の美学」の「江戸落語の最高傑作」(『全身落語家読本」新潮選書)。
 このお金で餅屋を開いて繁盛させた金兵衛の子孫が営む、戦前の和菓子屋と、その継承であるカフェの、1973(昭和48)年、2012(平成24)年の三つのときを、店の金庫をタイムトンネルに、登場人物が往来しつつ、強盗で財を成した西念とヤクザの苅田金兵衛との金の貸し借りをめぐる『ヴェニスの商人』もどきのトラブルと決着をメインの物語として、落語「黄金餅」の後日談が舞台で繰り広げられる。志らくお馴染みの仕掛けである。金庫の出入りのときには必ず、談志の「きんぎょー、きんぎょー」のお経の声が流される。ナンセンスを愛する談志と志らくのいたずら心の共鳴がみごとである。
 
 芝居には、談志の愛好した映画のシーンや台詞、音楽が散りばめられてあったらしいが、パンフレット4頁にわたり掲載の談志収蔵映画ビデオテープのほとんどを観ていないこちらには、わからなかった。その他登場人物の台詞には、「努力とはバカに与える夢」との、談志得意の毒のあるフレーズも挿まれるなど、まさに「談志のおもちゃ箱」。引用の出所はわからなくとも、一筋縄でいかないキャスティングで抱腹絶倒十分楽しめた。和菓子屋に生まれたメグを演じた女優の熊谷弥香は、モデル兼女優だけにスタイル・ルックスすばらしく魅力的であった。
 金庫を出入りしてタイムスリップし生きている談志に会いたいこと切だろう、志らくの、師匠へのオマージュ(hommage)が伝わって、危うく感動してしまうところであった。
 昔こちらが若いころ、談志師匠が衆議院議員選挙の選挙活動(東京第8区)で、白ずくめの服装でちょうど家の前を通りかかり、2階から見ていたこちらと一瞬眼が合ったことが思い出されたことであった。合掌。

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家に咲いた、上クチナシ、下アマリリス(レッド)の花。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆