ケルトの薄明

東京新聞」8/27号に、岡本勝人さんが、イェイツの『鷹の井戸』から着想した現代詩「ケルトの地から光がさす」を載せている。4聯からなる詩で、第2聨は「われわれはたましいで生きている」、第3聯は、「われわれはからだで生きている」、第4聯は、「われわれはことばで生きている」の行で始まっている。
  われわれはたましいで生きている
  アイルランドの海の彼方には
  不老の黄泉の国があるという
  『鷹の井戸』では老人と若者が仮面をつけた
  ケルトの薄明が亡霊の世界におりてくる
  身体に集合的無意識を象徴させる仮面の劇
  井戸の底で不死の水を求めた笛の音が
  ひとの誕生と死とこの世の愛と苦しみを輪舞
  させる
    ……岡本勝人「ケルトの地から光がさす」第2聨

 ケルトといえば、解散した「LUNA SEA」のSUGIZO経由で関心をもった人も多いに違いない。『MOTHER』のCDアルバム・ジャケットは、たしかアイルランドの崖が使われていたと記憶する。


 こちらは、かつて(1985年9月)東京赤坂・草月ホールで観劇した、グループMA[間]の舞台『鷹の井戸』(イェイツ原作)を思い起こす。演出・振付:矢野英征、作曲・指揮・演奏:平義久、上演台本翻訳:中村雄二郎、出演は、ヨーロッパのダンサー&俳優と歌手、フルートとパーカッション演奏もヨーロッパの人たち。マリオネットも登場した。冒頭詩の第1聨にもあるように、フェノロサが採取しておいた能の詞章を、エズラ・パウンドがイェイツ(William Butler Yeats)に紹介し、当時アイルランドの芸術再興運動にかかわっていたイェイツが、それにインスピレーションを得て書きおろしたといういきさつのある作品である。井戸を守る女=鷹の化身と、その井戸から溢れる不死の水を求める青年、それを諦めている老人の三者が、それぞれのうちに、ダンサー、役者、マリオネットを含みつつ、互いにトリアーデ(三幅対)をなしている。中村雄二郎氏は、「宇宙そのものを形づくっている。三項関係そのものからして宇宙的である上に、この場合にはそこに老若・男女の関係を含み、ここに女(鷹の化身)、青年、老人はそれぞれ、運命=誘惑、若さ=冒険、老い=執着をも表わしているからである」(同公演パンフレット)と解説している。