風の花

 4月に実家を訪問した折、玄関先に鉢植えしてあるアネモネの花に魅せられた。花茎に一輪のみ咲く鮮やかなその色彩には、おのれの生き方に迷いのない、清々しさのようなものを感じた。わが家でも来年は花を咲かせたいものだ。
 ラテン語原文と対訳構成の仏語版・英語版を底本とした、プリニウスの『博物誌』を縦横に引用した澁澤龍彦のエッセイ集『私のプリニウス』(河出文庫)に、この花について、「栽培されたアネモネには多くの種類があり、深紅色の花のものがいちばん普通であるが、なかには紫色の花や白い花のものがある。この三つの種類は、パセリに似た葉をもち、高さはほとんど半歩尺を越えず、先端はアスパラガスのそれに似ている。花は風が吹くときにしか決してひらかず、そのためにアネモネという名で呼ばれている」と引用・紹介され、澁澤龍彦は書いている。

『なんといってもアネモネの魅力の第一は、私の思うのに、風を意味するギリシア語アネモスから由来している、その名前のひびきの美しさであろう。アテナイのアゴラの近くに「風の塔」と呼ばれる、建築家アンドロニコスの建てた大理石の八角形の塔があり、塔のてっぺんに青銅製のトリトンの風見が立っていたことが知られているけれども、ヨハン・ベックマン(『西洋事物起原』)の意見によれば、これ以外にも古代にはアネモドゥリウムとかアネモゲリウムとか呼ばれた、風見をそなえた塔ないし柱のごときものが数多く建てられていたらしいという。なぜアネモネがとくに風と関係づけられるようになったのか、神話の説明を読んでもよく分からないが、古代人がこれをいみじくも風の花と呼んだことに、私は詩的な味わいを感じないではいられない。』(同書「アネモネサフラン」)※トリトン(トリートーン):ポセイドーンとアムピトリーテーの子。半人半魚の姿でポセイドーンに従って海馬に跨がり、ほら貝を吹き鳴らして海を鎮める姿で想像される。(岩波『ギリシアローマ神話辞典』)
 
 ところで福島第一原発事故以降、原発に替わるエネルギーとして、自然エネルギーの利用が注目されている。環境エネルギー政策研究所長の飯田哲也氏も、「二〇年までに自然エネルギーを倍増させるドイツに倣えば、日本も電力に占める自然エネルギーの割合を現状の10%から二〇年までに30%に増やすことは十分に可能な目標である」(「東京新聞」5/4)として、「地域と自然エネルギーを軸とする日本の新たな百年の計を立てること」が「国民に対する政治の責任」と述べている。この自然エネルギーの中に、風力発電も含まれているとすれば、それについてはかんたんではないようだ。
 http://no-windfarm.asablo.jp/blog/cat/5/ (風力発電の問題性)
 ついでの話として、かつては福祉のスウェーデン、いまやエネルギー供給をめぐってドイツが理想のお手本になりつつあるようだが、原子力発電のフランスから電力を輸入していることを措いても、かの国の自然エネルギー太陽光発電」に関して、問題が存在しているようである。
 http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20110420/106392/?ST=print (ドイツの太陽光発電
 ナウシカの「風の谷」のような生活は理想であるが、あたりまえながら現実にはなかなか困難であろう。

私のプリニウス (河出文庫)

私のプリニウス (河出文庫)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のコデマリ(小手毬)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆