インドで「いきものがかり」




東京新聞」10/23・10/30の連続記事『生きる』で、奈良康明駒澤大学名誉教授が、「ことばの文化論」と題して面白いエッセイを載せている.氏がインド宗教文化史の研究のためインドに長期滞在していたとき、悪性のインフルエンザにかかった。親友の家で一週間世話になったのだが、とくに親身になって看護してくれた彼の弟の嫁さんが、「何でああもサンキュー、サンキューと言うのか」と怒りの質問をしたそうである.奈良氏は、その後事情がわかってきた。「インドでのサンキューということばは親しさに欠け、意味が軽いのである」と。「親しい人間関係の中で、年長者は年少者にサンキューとはまず言わない.師弟の間でも同様である」とのことである。
 それは、「ことばでは心が伝わらないという、ことばへの不信感がある」からだという。インド人は礼儀知らずだ、などと批判する日本人も少なくないそうだが、「それは、間違っている。有り難うと言わない文化もあるのである」。
 奈良康明氏には、かつて職業上のご縁から一度だけお会いし、その後御著『仏教史』(山川出版社)を贈っていただいた.その他の著作を含め、わが原始仏教の知識は、奈良康明博士から多くを負っている次第である.まさに「有り難い」出会いであったと回想する.

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の金柑の花.小川匡夫氏(全日写連)撮影.⦆