現代の「JACK THE RIPPER」

www.afpbb.com
 AFPBB国際ニュースによれば、イギリスのウェスト・ヨークシャー(West Yorkshire)州ブラッドフォード(Bradford)で、19世紀ロンドンで起こった「切り裂きジャック(Jack The Ripper)」事件を研究中の大学院生(40)が、売春婦連続殺人の容疑で起訴されたそうである.事実関係の詳細がまだわからないが、事実だとすればまさに、「ミイラ取りがミイラに」の狂おしい事例だろう.
 
 09年11/23の日付で、わがHPに記載している.再録しておきたい.

 山陰の山麓で起こった猟奇的犯罪の犯人はまだ捕まっていないようで、不気味さを感じさせる。早い逮捕を切に望みたい。昔名古屋の遊郭近くで起こった「増淵倉吉事件」が記録されているとしても、大都市の暗闇で起こる性質の事件であろう。まさに資本主義化は、犯罪までも「経験可能領域の普遍化」(大澤真幸氏)に導くのであろうか。
日経ビジネス」で細山 和由、黒澤 俊介両氏が指摘しているように、もはや日本の「コンテンツ業界」は、マンガ好き首相の退陣とは無関係に下り坂で、クール・ジャパンではなく、コールド・ジャパンとしての国際的位置になっているそうだ。そのような状況のなか、硬派出版社のみすず書房がこの秋に、アラン・ムーア作、エディ・キャンベル画のマンガ作品『フロム・ヘル』を上梓した。作者ムーアは、英国出身で、欧米コミック界で最も尊敬され、恐れられている天才(訳者:柳下毅一郎氏)だそうだ。19世紀末(ビクトリア朝時代)のロンドンで起こった娼婦連続殺人事件を題材にしている。いわゆる「切り裂きジャック事件」として知られた、迷宮入りの猟奇事件である。
 映画でもジェス・フランコ監督で、怪優クラウス・キンスキー主演のものと、ウィリアム・タネン監督、名作『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイが出演しているものと、それぞれの『JACK THE RIPPER』を、DVDで観ている。このマンガ作品は、犯人を史上あげられている23の容疑者の中から、サー・ウィリアム・ガル(女王のご典医)、ウォルター・リチャード・シッカート (画家)、ジョン・ネトリー(御者)の3人とする説を採用して、物語が進行している。女王の孫のプリンス(ジョン・ネトリー)の娼婦との醜聞を隠蔽するための殺人という解釈だ。ガルを直接の実行者としている。

   http://www3.kmu.ac.jp/legalmed/DNA/jtr.html

 おぞましい殺戮法は、フリー・メイソンの儀式に則った様式とされる。画のモノクロの色調は、背筋を凍らせる力がある。
 上巻を読み終えたところだが、3人目の犠牲者(ロング・リズ)が殺されるところの場面、現場近くの建物で催された集会で、ウィリアム・モリスが登場し、自作詩「恋だにあらば」を朗読する。登場人物はすべて実名である。唐突さに驚いたが、時代的には不思議なことではない。モリスは社会主義者として、当時のロンドンという街を痛罵していたのだ。

「富めるロンドンは、スラム-ロンドン、すなわち貧しきロンドンの産物である。私はロンドンのスラムが他の大都市のスラムより酷いと言うつもりはないが、このスラムも富める地域と一緒になって、ロンドンという名の怪物を作り上げているのである。同時に、ロンドンは、過去の時代の奴隷制にとって代わった商業主義的奴隷制の中心地であり、見本市でもある。当然ながら、この奴隷制から利益を得る者(?)がその結果を最も明白に理解したのは、この都市の中心街においてであった。」(「醜いロンドン」出典↓)

 http://www.geocities.jp/mickindex/morris/morris_UL_jp.html

 モリスが醜いロンドンの対極に思い描いたのが、活動の拠点となったケルムスコット村のあるコッツウォルズ地方の景観であろう。いまもその景観は変わっていないのだろうか。あるいは〈保存〉されて、観光資源となっているのだろうか。


⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のカラー(calla)=オランダカイウ(和蘭海芋)。小川匡夫氏(全日写連)撮影.⦆